第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 2−25

痴呆においてみられる妄想とMMSEの関連についての検討;MMSEとBehave ADの相関について
  

奈良県立医科大学精神科
中村 祐 川端洋子 岸本年史
   秋津鴻池病院 馬場香絵 三宅雅一 平井基陽
 わが国においては急速に人口の高齢化が進行しており,それに伴い痴呆患者数も急激に増加している.痴呆患者のケアは介護者に大きな負担となっており,介護を困難にする症状の対応は重要な問題である.痴呆患者のケア上最も問題となる症状として妄想に関連した症状があるが,経過・治療ともに現在のところ十分に検討されていない.現在,介護保険制度のもとに老人性痴呆疾患療養病棟または老人保健施設痴呆専門病棟において多くの痴呆患者のケアが行われている.これらの施設(9施設,290例)において,MMSE(Mini Mental Scale Examination),CDR(Clinical Dementia Rating)およびBehave AD(Behavioral Pathology in Alzheimer,s Disease,以下BAD)等を調査した.おもに認知機能と妄想症状の相関について検討を行い,妄想の発生に寄与している認知障害や要因について統計学的に検討を行った.MMSE-CDR間には高い相関がみられたが,BAD1-25(項目1-25合計)-MMSE合計間,およびBAD1-25-CDR間では有意な相関はみられなかった.知的機能の尺度であるMMSEと行動機能尺度に近いCDRには高い相関がみられること,すなわち知的機能評価尺度のMMSEが低くなると,行動機能尺度といえるCDRが高くなることが示された.一方,問題行動尺度であるBADは痴呆の重症度(MMSE,CDR)との相関に乏しいことが示された.BADで妄想に関連する7項目の合計点数BAD1-7とMMSE合計点数の相関を検討したところ,緩やかな正の相関(スピアマン順位相関係数検定,r=0.1380,P=0.01895)がみられた.しかし,MMSEの合計点数を5点ごとに分けて検討すると6-10点の群にpeakがみられた.また,BAD1-7とMMSEの各項目の間で重回帰分析を行ったところ,比較的高い標準回帰係数がみられた項目は,見当識(-0.21),再唱(+0.22),3段階の命令(+0.19),重なる図形の模写(+0.16)であった.これらのことから妄想は見当識障害のみられる中等度から高度の痴呆で,即時記憶の障害や構成失行のない患者でみられやすいことが示唆された.

2003/06/18


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