【背景】うつ病では前頭葉の血流低下が報告されているが,血流低下と前頭葉機能障害との関連を調べた研究は少ない.今回われわれは前頭葉機能を評価する検査としてModified
Stroop testを用い,前頭葉血流との関連を調べたので報告する.
【方法】2002年4月から2003年1月までの期間に横浜市立大学医学部附属病院神経科および同附属市民総合医療センター精神医療センターを受診したうつ病患者25名(男性10名,女性15名,平均年齢56±15歳)に,同一機種のSPECT装置と統一された撮影条件のもと,99mTc-ECD
SPECTを施行した.脳の21の部位にROIを設定し,各部位の局所脳血流を求め,また各部位の血流と後頭葉の血流との比を算出し,相対的局所脳血流とした.Modified
Stroop testはSPECT撮影の前後3日以内に施行し,PartVの所要時間とPartTの所要時間の差を得点とした.年齢・重症度(ハミルトンの抑うつ尺度)・服薬量(イミプラミン換算値)・半球平均脳血流・各部位の局所脳血流・相対的局所脳血流・Modified
Stroop testの得点のそれぞれについて相関分析を行った.
【結果】左の前頭前野・背側前頭前野・前部側頭葉,および前帯状回の局所脳血流は,年齢と有意な負の相関を示したが,Modified
Stroop testの得点との相関は認めなかった.左の前頭前野・背側前頭前野の相対的局所脳血流は,年齢・重症度・服薬量のいずれとも相関を示さなかったが,Modified
Stroop testの得点と有意な負の相関が認められた.その他の部位の相対的局所脳血流は,Modified
Stroop testの得点との有意な相関を認めなかった.
【考察】脳血流の定量値は年齢と相関したが,後頭葉を基準とした相対的局所脳血流は年齢の影響を受けなかった.一方,左の前頭葉の相対的局所脳血流は前頭葉機能障害を示唆するModified
Stroop testの得点の高さと負の相関を示した.情動の調節にかかわる神経解剖学的モデルとして,前頭前野・視床・辺縁系などが関与することが提唱されており,うつ病ではこれらの部位の機能障害が存在すると考えられる.うつ病において前頭葉の血流低下が存在することは広く知られているが,われわれの研究で前頭葉の相対的局所脳血流の低下と前頭葉機能は相関し,血流低下が前頭葉機能障害を反映していることが確認された.
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