第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 2−17

軽度アルツハイマー型痴呆患者の認知機能障害に及ぼす塩酸ドネペジル長期投与の効果
  

北里大学医学部精神科学
高橋 恵 中島啓介 増山浩一
宮岡 等
【はじめに】精神科救急に対して,神奈川県では平成14年4月以降警察に保護され24条通報されたケース(緊急:自傷他害のおそれの強い場合)への対応は輪番制をとり,24時間対応を開始した.そのなかで,北里大学東病院精神神経科入院病棟では3床の緊急対応病床を確保し,月5日の24時間緊急対応とそれ以外の日は夜間10時までの緊急対応を行っている.警察以外のルートへの対応は精神保健福祉センターの救急対応窓口で夜間10時まで相談を受け対応している.痴呆老人や高齢者の精神症状への救急対応の必要性が社会問題化しているが,夜間休日に関しては対応窓口のないことも多く,精神科救急のルートを使う以外ないのが実情であろう.しかし,24条通報ケースに占める高齢者の実態に関する報告はほとんどない.そこで,今回当院で対応した24条通報ケース内の高齢者の実態を調査し,なにが高齢者の精神保健の維持に必要なのかを考察した.


【方法】平成12年4月から平成15年2月末日までに北里大学東病院で診察を行った24条通報ケースのうち60歳以上の高齢者の受診理由,診察結果,疾患,患者背景などを24条通報請書,措置入院診察結果報告書,カルテから調べ解析した(学会当日は平成15年3月末日までのデータを紹介する予定である).


【結果】該当期間内の24条通報ケースは計170例で,男性98人,女性72人で,診察の結果,措置入院130,医療保護入院30,入院外9,緊急措置入院のみ1であった.疾患別では器質性・症状性精神病5,中毒性精神病25,精神分裂病圏87,躁うつ病・うつ病17,心因性精神病23,人格障害13であった.
 このうち,60歳以上のケースは14例で,65歳以上は6例,60〜64歳は8例であった.性別は男性10,女性4で,診察の結果措置入院7,医療保護入院5,入院外2となった.通報理由は他害10(暴行6,器物損壊4),自傷4で,疾患は統合失調症2,老年期精神障害2,非定型精神病1,躁うつ病3(躁2,うつ1),うつ病2,中毒性精神病1,心因性精神病1,器質性精神病(痴呆のみ)2であった.痴呆を示したものは軽度を含めると5例であった.単身生活者は4例で,配偶者との2人住まいは7例であった.今回が初発エピソードは7例で合併症を有する者が8人いた.


【考察】横浜市の痴呆性高齢者緊急対応事業報告によれば,平成8年度から11年度の統計で緊急入所がおよそ150から190ケース/年で,そのうち痴呆疾患治療病棟に入院したのが65から80ケース/年で特別養護老人ホーム緊急入所が50から80ケース/年であった.神奈川県全体では平成12年度の精神保健診察は753例であったことから,当院ではその5〜10%を担当しているといえよう.そして,当院での精神保健診察に占める60歳以上の%は約8.2%であった.以上より精神保健診察にあがってくる高齢者は,問題行動が激しいものに限られることが予想される.疾患別では高齢者特有の痴呆や老年期精神障害が約30%で,単身者と高齢者夫婦のみの世帯が約80%であった.以上より,家庭での対応力に乏しい場合は精神保健診察にあがる要因となる可能性がある.

2003/06/18


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