【目的】アルツハイマー型痴呆(ATD)の中核症状である認知機能障害に対する塩酸ドネペジル(DPZ)長期投与の効果を明らかにする.
【対象】DSM-WによりATDと診断され,Functional Assessment
Staging(FAST)にて重症度4(軽度)と評価された70名である.その内訳はDPZを服薬している服薬群40名(男性8名,女性32名,平均年齢73.7±8.1歳,Hasegawa,s
Dementia Scale-revised ; HDS-R 20.7±5.0点)および非服薬群30名(男性4名,女性26名,平均年齢74.4±7.6歳,HDS-R
19.4±3.5点)である.
【方法】認知機能の評価は聖マリアンナ医大式コンピュータ化記憶機能検査(STM-COMET)を用い,immediate
verbal recall(IVR),delayed verbal recall(DVR),delayed verbal
recognition(DVRG),memory scanning test(MST),memory filtering
test(MFT),の5項目について服薬群ではDPZ服薬前と服薬開始平均48週後,非服薬群では初回受診時と平均48週後に評価した.なお,各対象に本研究の主旨を十分に説明し文書にて同意を得た.
【結果】(1)HDS-R,IVR,DVR,MSTは初回時および観察終了時ともに服薬群と非服薬群間に有意差は認めず,両群とも経時的な変化も認めなかった.(2)DVRGは初回時において両群間に有意差を認めず,観察終了時において非服薬群は服薬群に比べ有意な低値(p<0.01)を認めた.また非服薬群は観察終了時には初回時に比べ有意な低値(p<0.01)を認めた.服薬群の経時的変化はごく軽微であり初回時と観察終了時との間に有意差を認めなかった.(3)MFTは初回時には非服薬群と服薬群間に有意差は認められなかったが,観察終了時において非服薬群は服薬群に比べ有意な低値(p<0.05)を認めた.両群とも経時的に有意な変化は認めなかった.
【結論】ATDに対してDPZは言語記憶機能のなかでDVRGで評価される再認能力の低下を抑制すること,ならびにMFTで評価される注意集中の持続能力を基盤とする反復再生機能の低下を抑制する可能性が示唆された.これらのことよりDPZがATDの中核症状である認知機能障害の進行を抑制する可能性が推測された.
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