第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 2−15

緊張病性昏迷中に複雑部分発作重積を生じPHT併用下にECTを施行し有効であった一例
  

東北大学医学部附属病院精神科
本多知子 鈴木一正
 東北大学大学院医学系研究科精神神経生物学
               山下元康
 東北大学大学院医学系研究科精神神経学
粟田主一 松岡洋夫
 初老期以降の緊張型統合失調症においては,身体予備能の低下によりさまざまな合併症が発生し治療に苦慮することが多い.われわれは初老期の統合失調症において緊張病性昏迷の経過中に複雑部分発作重積を生じ,phenytoin(PHT)投与により発作消失後にECTを施行し有効であった症例を経験したのでここに報告する.
 症例は当科初診時62歳の女性.元来社会適応は良好であった.41歳時に急速に被害妄想,精神運動興奮を呈しA病院に初診しhaloperidol(HPD)9 mg,levomepromazine(LP)75 mg(一日量)により1か月で寛解した.1年後に被害妄想,不眠が出現し,入院後HPD 12 mg,LP 125 mgにより33日間で寛解した.47歳時には心労を契機に被害妄想,不眠,精神運動興奮を呈し,入院後HPD 18 mg,LP 100 mg,zotepine(ZP)100 mgにより46日間で寛解した.その後薬物療法で寛解を維持していた.57歳時に心労を契機に急速に不眠,被害妄想,精神運動興奮を呈し,入院後HPD 18 mg,ZP 150 mgにより42日間で症状軽快し一時退院したが,1か月で抑うつ気分が出現し,maprotiline 100 mg,sulpiride 300 mgを追加投与するも効果なく,さらに1か月後に大量服薬がみられ意識障害を呈し入院した.意識障害改善後も貧困妄想,被害妄想,心気妄想,命令性幻聴,体感幻覚,身体的被影響体験がみられた.X-1年の春(61歳)からは,無言,無動,衒奇症,拒絶症,衝動行為など急速に緊張病症候群を呈し,薬物はそれぞれ最大量でHPD 18 mg,bromperidol 18 mg,ZP 150 mg,risperidone 8 mg,sulpiride 600 mg,sultopride 300 mg,perospirone 8 mg,quetiapine 75 mg,setiptiline 6 mgが投与されたが効果はなかった.X年の1月(62歳)に自殺企図があり,その後無言・無動の昏迷状態を呈し,38℃台の発熱,筋強剛,CK上昇(7100 IU/L)がみられ,X年4月にECT目的で当科に転院となった.初診時は,無言・無動,一点凝視,カタレプシー,筋強剛があり,緊張病性昏迷状態であり緊張型統合失調症と診断された.低蛋白血症,極度のるいそう,37℃台後半の発熱もみられ全身状態不良であった.入院5日後に誤嚥による呼吸困難からの一時的な低酸素血症を誘因に複雑部分発作重積となった.PHT 750 mgの急速飽和により発作は消失,PHT 250 mg静注の継続にて脳波は改善しその後発作はみられなかった.しかし,緊張病性昏迷は不変であり,薬物治療難治性,全身状態の悪化に伴う身体切迫性を考慮し,ECT施行にふみきった.複雑部分発作の既往があることから,ECT中PHT 250 mgの静注は継続し,治療時にはEEGによるモニタリングを行った.ECTにより昏迷状態は改善し,不安や自発性の低下を残すものの,外泊を行うまでに回復した.
 緊張病性昏迷の経過中に複雑部分発作重積が伴った統合失調症重症例に対して,注意深い脳波モニタリングと抗てんかん薬投与下でのECTが,安全かつ効果的であることを示した.

2003/06/18


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