【はじめに】平成14年6月から改正道路交通法の施行により痴呆性ドライバーの運転が禁止された.しかしこれまで痴呆性老人が自動車運転をすることの是非について医学的に十分議論はされていない.そこでわれわれは痴呆性老人の自動車運転に関する実態調査のため,痴呆を抱える家族の会高知県支部の会員対象にアンケート調査を施行した.
【対象と方法】家族会調査は平成14年2月に郵送方式で272名に対し行い,114名から回収した(回収率42%).痴呆性ドライバーを介護する会員はいなかったが,過去に運転歴があるものは29名であった.
【調査内容】1)痴呆性ドライバーが運転中断をすべきかどうか,2)中断する場合はどこが決定すればよいか,3)運転中断の方法はどうすればよいか,4)運転中断しても痴呆性ドライバーが生活するためにはどのようにすればよいか,5)平成14年6月施行の改正道路交通法における痴呆性ドライバーの欠格条項について知っているかどうか,6)痴呆性ドライバーを介護している場合,運転に際しての危険性や介護困難の有無について調査を行った.
【結果】1)痴呆性老人が運転を止めるべきかどうかでは,家族会会員の大多数(114名中93名,81%)が運転を止めるべきであるという意見であった.2)家族会調査では痴呆の運転を中断する場合,家族の意見や医師の判断を重視する意見が7割,本人の意向や警察にゆだねるという方法は3割程度と低い結果であった.3)家族会会員調査では運転を中断する際の判断基準では,痴呆の程度を重視すべきという意見が61.4%で最も多く,以下痴呆の有無50.8%,運転技術34.2%,警察の試験33.3%の順であった.4)痴呆性ドライバーの生活ため,高齢者のためのタクシー割引や,介護保険による通院援助,公共交通機関の整備など社会サービスの充実に期待する意見が過半数にみられた.5)痴呆性老人の運転が制限を受けるようになることを,家族会会員の9割近くが知らなかった.6)家族会の会員調査において,過去に運転をしていた痴呆性老人を介護経験のある29名では,痴呆発症後,7割近くに運転行動上何らかの変化がみられ,なかには接触事故や,物損事故,高速道路の逆走など,危険な行為もみられていた.また御家族が運転を止めさせようと中断を試みても,本人が自然に止めたものは26名中5名と少なく,むしろ鍵を隠したり,車を廃車にしたりと過半数の家族の方が止めさせるのが大変であった.そして26名中11名が,痴呆であっても問題なく免許の書き換えができており,免許制度自体にも今後対策が必要であると思われた.
発表当日は医療機関に通院中の痴呆性ドライバーを介護する家族に対して施行した同様のアンケート調査結果の相違点について述べる予定である.
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