第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 1−9

痴呆性高齢者の自己決定;フォーカスグループによる検証
  

岩手県立大学社会福祉学部 野村豊子
 高齢者痴呆介護研究・研修大府センター 水野 裕
【研究目的】・軽症の痴呆性高齢者を対象としてフォーカスグループを行い,利用者としての評価能力を検討し,客観的なサービス評価の統合の一助とする.
 ・軽症の痴呆性高齢者の判断能力と諸権利を,家族や関係者がどのように擁護することができるかに関して質的検討を行う.


【対象と方法】対象は6グループ,計32名で,内訳は,在宅痴呆性高齢者5名,デイサービス利用痴呆性高齢者5名,老健利用痴呆性高齢者5名,家族介護者5名,民生委員6名,介護支援専門員6名である.
 フォーカスグループは各1時間半で,実施過程は以下の通りである.
 利用者・権利擁護関係者からのヒアリング,ニーズの類別化,グループ別の質問項目検討,グループの実際の構造,インタヴューの方法の検討(参加者構成,時間,場所,リーダー,まとめ役,記録他),グループの実行という継時的な展開による.


【結果と考察】・利用者グループにおいては,生活上の楽しみ・苦労,家族とのやりとり,福祉・保健・医療担当者とのやりとり,いままでの人生における多様な意思決定の経過,利用サービスへの評価,今後の希望にかかわるテーマが示された.グループ文化では闊達でなじみの関係が形成され,悩みや喜びが統合して含まれているのが特徴的である.
 ・家族介護者グループにおいては,利用者への理解,介護の苦労,他の家族員や親戚からの支援,地域の支え,サービス利用に関する評価や自分自身の老い,さまざまな意向の相違に関するテーマが示された.グループ文化では,ともに苦労しあっている仲間意識が形成される一方で,立場の相違や権利擁護に関する理解度の温度差が特徴的である.
 ・民生委員グループにおいては,痴呆性高齢者とのかかわりの具体例があげられ,家族を含めた援助のむずかしさ,民生委員としての役割,各種機関・家族・地域との連携の重要性および,火事・詐欺・犯罪などの危険性への対応に関する数々のテーマが示された.グループの特徴としては,具体例提示の準備がされている,参加意欲が大きい,地域社会・地域文化へのかかわり方の相違がみられた.
 ・介護支援専門員グループにおいては,痴呆性高齢者ケアに対する介護保険の開始期と現在の相違点,サービス担当者会議の権利擁護にかかわる意義,チームケアの意味と位置づけ,本人と家族の意向の相違,火事・詐欺・犯罪などの危険性への対応,家族からの依頼が限界状況になってから行われている状況および成年後見制度における擁護の実質とジレンマにかかわる多様なテーマが示された.参加意欲が高く,参加者間の協働が顕著であり,権利擁護に関する理解度が十分で,困難解決への指向性が高いことが特徴的であった.
 フォーカスグループを活用する意義については,研究過程への利用者参加が促進し,自由な枠組みの問いかけにより,応答する人自身の理解が進み,質の高い意見の収集が可能であった.さらにすでに入手している量的結果のデータ解釈に有用であり,また量的な調査を行う際の質問項目や調査技法の設計に役立つことが示された.

2003/06/18


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