第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 1−8

地域福祉権利擁護事業における契約締結能力の判定;第3報 経過調査の結果より
  

東京都精神医学総合研究所 五十嵐禎人
 地域福祉権利擁護事業は,痴呆性高齢者,知的障害者,精神障害者など判断能力が不十分な者を対象として,福祉サービスの利用援助を行うことにより,その者の地域における自立を援助し,またその権利を擁護することを目的として,1999年10月より開始された.本事業は,民法上の委任代理契約によるサービスであり,契約締結能力に疑義のあるケースについては,都道府県社会福祉協議会に設置された契約締結審査会(法律,医療,福祉の各領域の専門家より構成)においてその適否を審査することとなっている.
 演者はこれまで本学会において,東京都社会福祉協議会の契約締結審査会における契約締結能力の判定について報告してきた.今回は,審査事例の2002年11月15日までの状況について調査した結果を報告する.


 対象は,東京都社会福祉協議会において本事業が開始された2000年4月から2002年3月までに契約締結能力に疑義ありとして契約締結審査会の審査対象となった痴呆性高齢者25例(男性8例,女性17例)である.対象例の平均年齢は79.7±8.8(67〜101)歳であり,75歳以上の者が18例(72.0%)と大多数を占めていた.生活状況は単身生活19例,痴呆性高齢者と同居3例,障害のある家族との同居者3例と,いずれも本事業による援助の必要性の高い者であった.精神科医による訪問面接時に改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を施行できた22例のうち10点以下の者が6例,15点以下の者が8例であり,臨床的にも中等度以上の痴呆に罹患している者が過半数を占めていた.


 審査会の判定では契約可とした者が23例,再審査後契約可とした者1例,契約不可とした者が1例であった.契約可と判定された24例中,2例は本人の死亡により,また3例は親族等の支援が得られたことによって契約に至らなかった.契約を締結した19例中15例は本事業によって生活や社会福祉サービス利用の状況が改善されており,本事業はおおむね地域社会での生活を支援するために有効に機能していたと考えられた.これに対して,本事業による支援が有効に機能しなかった4例のうち,3例は契約締結後に本人の身体状況の悪化や日常生活能力の低下により入院・施設入所等が必要となった事例であり,1例は本人が本事業による援助を十分に受け入れていなかった事例であった.

2003/06/18


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