【目的】MRI上での海馬の面積と認知機能において,3年間のおのおのの経時的変化と両者の関係について明らかにする.
【対象および方法】対象は物忘れを主訴として受診した外来患者10名である.DSM-W診断および,Functional
Assessment Staging(FAST)により,FAST2と評価された3名(男性0名,女性3名,平均年齢79.0歳)を非痴呆A群,FAST3と評価された4名(男性1名,女性3名,平均年齢67.7歳)を非痴呆B群,FAST4と評価されたAlzheimer型痴呆患者3名(男性2名,女性1名,平均年齢67.3歳)を痴呆群とした.初診時と3年後に,頭部MRI上での海馬面積の測定および聖マリアンナ医科大学式コンピューター化記憶機能検査(STM-COMET)を施行した.海馬の面積および頭蓋内面積の測定は,頭部MRI上OM
lineに垂直な冠状断のT1強調画像を用い,解析対象物のカウント・計測ソフトであるImage-Pro
Plusを用いた.STM-COMETは直後自由再生,遅延自由再生,遅延再認,memory
scanning test,memory filtering testの5項目から構成されている.
【結果】(1)海馬の面積を頭蓋内面積で除した値において,初診時では,非痴呆A群は非痴呆B群および痴呆群と比較し有意差を認めた.3年後では,3群とも初診時に比較し低下していた.
(2)STM-COMETにおいて,初診時では,非痴呆A群は非痴呆B群および痴呆群と比較し有意差を認めた.3年後では,非痴呆A群は初診時と比較し,有意な変化を認めなかった.一方,非痴呆B群と痴呆群においては,初診時と比較し有意な悪化を認めた.
【考察】痴呆群では,認知機能障害とともに海馬の萎縮が認められた.非痴呆B群においては,初診時よりすでに海馬の萎縮が認められ,認知機能障害は経過とともに進行し,3年後では痴呆群と同等のレベルまで悪化した.非痴呆A群は有意な経時的変化は認められなかった.したがって,臨床的に痴呆と診断されない非痴呆B群は,海馬の形態学的変化が機能的変化よりも先行することが示唆された.
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