【背景と目的】将来痴呆に伸展する可能性のある軽度の認知障害に影響を及ぼす因子を調べるためにわれわれは1997年以降地域在住の健常高齢者を対象として頭部MRIによる脳健診を行っている.今回複数の神経心理検査によって判定した認知障害と頭部MRI所見等との関連について検討を行ったので報告する.
【対象と方法】対象は1997年〜2001年の肥前背振脳MRI健診受診者中,60歳以上の者のなかから明らかな痴呆,頭蓋内病変や症候性脳血管障害の既往やうつ病などの精神疾患を有する者,あるいは検査が不十分な者を除外した350名(男121名,女229名,平均年齢72.4±6.9歳)である.全例に頭部MRI検査を行い,神経心理検査としてModified
Stroop Test日本語版(慶應版)(MST)とMini-Mental State
Examination(MMSE)を施行した.その他臨床事項についても調査した.
【結果および考察】MSTの平均は24.9±22.6秒,MMSEの平均は26.4±3.1点であった.また脳梗塞は56名(16.0%)に認められた.MSTの結果が37秒以上の者を認知障害あり群として36秒以下の認知障害なし群とに分類し比較検討したところ,認知障害群は52名(14.9%)いた.MSTによる認知障害と関連がある事項について多変量解析を用いて調べたところ,白質病変,脳萎縮および脳梗塞の個数が有意に関連していた.とくに脳梗塞は2つ以上の個数のときに認知障害と関連がみられた.次にMSTによる認知障害と脳梗塞の部位との関連について検討した.梗塞巣の大部分はMCA領域に存在していた.梗塞巣の部位と認知障害との検討では放線冠領域が,梗塞巣のある頭葉との検討では前頭葉がそれぞれMSTによる認知障害と有意に関連が認められた.軽度の認知障害はおそらくヘテロの状態であり,複数の神経心理テストを組み合わせて評価することは重要である.また今回認知障害と判定された者がどのくらいの割合で痴呆に移行するかを調べるために今後は縦断的な研究を行い,認知障害の関連因子について評価したいと考えている.
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