【目的】アルツハイマー型痴呆(AD)やびまん性レビー小体病(DLBD)にAChE阻害薬を投与すると,錐体外路症状が悪化することがある.その現象が,薬剤性パーキンソニズムなのかパーキンソン病(PD)なのかを鑑別できれば,より的確な処方が可能になる.123I-MIBG心筋シンチで得られる心臓(H)と上縦隔(M)の平均カウント比(H/M比)は,レビー小体病(PDとDLBD)で低下し,ADで低下しないことが知られている.この検査を用いて,ADとPDが合併した患者を見つける試みをし,認知機能と錐体外路症状との関連性を検討した.
【方法】外来において2.5か月の間に診察した痴呆患者のうちdonepezilを投与していたのは463名であった.うち,錐体外路症状が悪化していた21名(4.8%)にシンチを施行した.対象は男9名,女12名.平均年齢76.5±7.2歳,痴呆の罹病期間は4.2±2.4年,改訂長谷川式スケール(HDS-R)は14.7±6.2点であった.全員に糖尿病,心疾患,顕著な自律神経症状はなく,シンチ前の臨床診断は,DLBD3名,AD+PD7名,混合型痴呆(MIX)+PD1名,AD6名,MIX3名,AD+無症候性脳梗塞(INF)1名であった.シンチは安静時に111
MBq静注後早期像を撮像し,H/M比を算出した.donepezilは1.5
mgで開始し5 mgを目標に増量したが,錐体外路症状が悪化した時点で増量をやめ適宜抗パ剤を併用した.
【結果】レビー小体病とその他疾患を鑑別するのに最適なH/M比のカットポイントを1.89(Taki
J)に設定すると,A群(平均H/M比1.38±0.20)10名,B群(2.17±0.15)11名となった.レビー小体病と診断していた者が,A群で7名(70%),B群で3名(27.3%)でH/M比が低い上位3名は全員DLBDだった.一日のdonepezil維持量とLドーパ使用量は,A群が1.7±0.9
mg,170±125 mgであり,B群が2.3±1.3 mg,127±119 mgであった.donepezilによる痴呆症状の改善はA群で7例にみられ,改善時期は3.4±3.6か月後,その時期のdonepezil服用量は2.4±1.3
mgであった.donepezilによる小刻み歩行の増強は,A群で5例にみられ,時期はdonepezil開始の4.5±3.5か月後,donepezilは2.2±1.6
mgであった.A群において,H/M比とYahr Stage(R=-0.78),H/M比とHDS-Rスコア(R=0.84),Yahr
StageとHDS-Rスコア(R=-0.80)は相関関係がみられた.
【考察】MIBG心筋シンチより得られたH/M比の結果は,錐体外路症状を有す痴呆患者に対する薬物治療の方針に重要な示唆を与える.A群(H/M比が低い)はもともとレビー小体病を合併しており,B群(H/M比が高い)はdonepezilによって一種の薬剤性パーキンソニズムを起こしたものと思われ,その観点からA群には抗パ剤の増量,B群には抗パ剤の減量がなされるべきことを啓示するものと思われる.この検査は,患者の安全と医療費の削減に貢献するであろう.
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