第18回日本老年精神医学会 演題抄録

 

I 1−2

アルツハイマー病における血管性の危険因子と脳の血管性病変
  

浴風会病院精神科 磯野 浩 古田伸夫 鈴木由貴 須貝佑一
浴風会病院内科 柳川清尊 伊藤嘉憲

【はじめに・目的】近年,血管病変がアルツハイマー病を引き起こす,あるいは発症を促進する可能性があることが指摘されている.また,血管性の危険因子である高血圧や高脂血症がアルツハイマー病と関連があるといった報告や,それらの治療薬がアルツハイマー病の有病率や発症率を有意に抑制したという報告が増え,アルツハイマー病と血管性の危険因子との関係が見直されてきている.加えて,血管性痴呆とアルツハイマー病の異同や,診断のむずかしさ,診断基準の見直しなどが話題となっている.そこで今回われわれも,当院でのアルツハイマー病における血管性の危険因子と脳の血管性病変について調査を行った.
【対象・方法】浴風会病院の連続剖検例のなかから,神経病理学的にアルツハイマー病と診断され,かつ生前の必要な情報が得られたものを対象とした.調査は,神経病理の報告書と診療録をもとに,血管性病変,高血圧,高脂血症,糖尿病の有無などについて,後方視的に行った.
【結果】病理診断でアルツハイマー病と診断されたのは,浴風会病院の連続剖検770例中の170例であった.現在のところ病理でアルツハイマー病と診断された120例(男性43例,女性77例,死亡時平均年齢86±7.1歳,平均発症年齢78.7±7.9歳)の調査を終えている.このうち,病理学的に脳出血が14例(11.7%),脳梗塞が75例(62.5%)に認められ,臨床的には,高血圧が54例(45%),高脂血症が53例(44.2%),糖尿病が17例(14.2%)に認められた.
【結論】これまでの結果から,神経病理学的にアルツハイマー病と診断された症例でも,脳の血管性病変(とくに脳梗塞)が半数以上に認められ,高血圧と高脂血症も40%以上に合併していた.このことから,血管性病変や高血圧,高脂血症の存在から,安易に血管性痴呆の診断をくだすことの危険性が再確認され,また,アルツハイマー病と血管因子との関係が示唆された.なお,今後さらに症例数を増やし,詳細な検討を行う予定である.

2003/06/18


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