【目的】NSAIDsはアルツハイマー病(AD)の進行を抑制することが多くの疫学調査で明らかになっている.最近ADの海馬錐体細胞でNSAIDsの標的となる酵素であるCyclooxygenase-2(COX2)発現が増強していることが報告され老人斑の出現量と比例することからCOX2発現はADの病態に重要な役割を果たしていると考えられている.Cotton
wool plaque(CWP)を伴うAD(cAD)はPresenilin-1(PS1)遺伝子変異を有し常染色体優性遺伝形式を示す家族例とPS1,PS2,APP遺伝子変異を有さない症例が存在する.cADは大量のCWPを有す一方でneuritic
plaqueの乏しいことが特徴である.今回われわれはこのcADの海馬錐体細胞のCOX2発現強度,Ab沈着,神経細胞脱落の関係を免疫組織化学的に検討した.
【対象と方法】cAD3例,通常のAD(tAD)17例,正常対照26例を用いた.CWPはエオジン好性でコアがなくコンゴレッドで偏光を示さずAb陽性の変性神経突起の乏しい斑とした.ホルマリン固定パラフィン包埋された海馬を含む6mm厚の切片の内因性ペルオキシダーゼをブロックした後10
mM Citrate buffer中で90℃30分加熱処理した.抗COX2抗体(Cayman,
rabbit, poly, 1:400)と一晩反応させた後ABC法を用いDABで発色させた.染色条件を揃えるため対象全例を同時に染色した.海馬CA1-4それぞれの部位で,撮影条件はすべて固定して,30-60個の神経細胞を高解像度デジタルカメラで撮影しTIFFファイルとして保存した.NIH
image 1.55を用いて神経細胞胞体部分の染色強度を測定した.各例でCA1-4における染色強度の平均値を求め,各切片の白質部分の強度を引いて補正した.正常群の平均値をCA1-4で求め,各症例のデータはこの正常対照群の平均値に対する%で表現した.cAD例で隣接切片をAb42,40に対する抗体でも染色した.またKl<CODE
NUM=009F>ver-Barrera染色切片で海馬神経細胞密度をCA1-4で求めた.3群間の死亡年齢,脳重,死後剖検までの時間,CA1-4のCOX2染色強度,細胞密度の平均値に有意差があるか分散分析を行い,有意差がある場合Fisher's
PLSDを用いてPost hoc分析を行った.P<0.05を有意とした.
【結果】死後剖検までの時間に群間の有意差はなかった.死亡年齢はtADよりcADで有意に若かった(P<0.05).脳重はtADで正常対照より有意に軽かった(P<0.0001).cAD例で多くのAb陽性CWPを海馬に認めた.COX2染色強度はtADでCA1-4すべての部位で正常対照より60-90%増強していた(P<0.0001).対してcADではすべての部位で正常対照と有意差はなかった.cADに比べてtADではすべての部位で有意な発現増強がみられた(P<0.001,0.005,0.05,0.005).海馬神経細胞密度はtADで有意に減少し(P<0.05)cADでは減少していなかった.
【考察と結論】今回の検討では症例数が少ないため,より多数例での検討が必要だが,少なくともcADとtADの間でCOX2発現の程度には有意な差があることがわかった.これはCOX2発現を含む炎症反応過程がtADとcADで異なること,COX2発現増強にはAb沈着以外に何らかの機序が関与していることを示している.またcADでは著しいAb沈着が海馬神経の細胞減少を引き起こしていない可能性も示唆された.
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