第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-19】

生化・神経病理・行動科学

Creutzfeldt-Jakob病(CJD)小脳におけるアポトーシス小体の出現
      
 

佐賀医科大学医学部精神医学講座・
九州大学大学院医学研究院附属脳神経病研究施設病理部門
川島敏郎
九州大学大学院医学研究院附属脳神経病研究施設病理部門
堂浦克美 岩城徹
九州大学大学院医学研究院精神病態医学
尾籠晃司
  

【はじめに】CJDの病理学的特徴のひとつに神経細胞の脱落が知られているが,その機序についてはいまだに不明である.最近 terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP-biotin nick end-labeling(TUNEL)法を用いた研究でscrapie罹患マウスやヒトの致死性家族性不眠症,CJDにおける神経細胞死がアポトーシスによるものであることが示唆されている.今回われわれはCJD死後脳におけるアポトーシスの形態学的検討を行ったので報告する.


【対象および方法】14例の日本人散発性CJD患者と10例の正常者の死後脳を対象とした.新皮質,海馬,扁桃体,基底核,視床,脳幹および小脳についてヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った.またアポトーシス細胞の由来を同定するために抗glial fibrillary acidic protein(GFAP)抗体,抗leukocyte com-^nmon antigen(LCA)抗体を,プリオン蛋白(PrP)の沈着パターンを検証するために抗PrP抗体を用いた免疫組織化学を間接法で実施した.さらに形態学的な観察結果を確認する目的で,CJD小脳切片を用いてTUNEL法を行った.小脳顆粒細胞層におけるアポトーシス細胞の数については定量的解析もあわせて実施した.


【結果】HE染色ではCJD小脳顆粒細胞層において核の変化を伴う小細胞が散見された.これらの細胞は数個の小さな円形の濃縮核とそれを取り巻くきわめて薄い好酸性の細胞質で構成されており,アポトーシス小体の形態的特徴に合致していた.このような細胞は検索したCJD症例の大半で観察された.しかしアポトーシス小体は小脳分子層や白質ではみられなかった.またCJD脳の小脳以外の部位,あるいは正常脳においてアポトーシス小体はまったく見いだせなかった.免疫組織化学ではアポトーシス小体はGFAP,LCAとも陰性であった.一方アポトーシス小体の核の大半はTUNEL陽性であった.CJD小脳虫部の顆粒細胞層におけるアポトーシス細胞の平均数は66.6±73.1/mm2であった.


【考察】われわれの知るかぎり,ヒトの神経変性疾患で神経細胞由来のアポトーシス小体の存在を示した報告は本発表が初めてである.われわれの結果から,CJD小脳顆粒細胞の脱落にアポトーシスが重要な役割をになっていることが示された.

2001/06/15


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