第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-14】

脳波関係

加齢による大脳皮質の局在性変化の神経回路モデルによる脳波解析
      
 

大阪大学大学院医学系研究科神経機能医学講座
梅田幹人 篠崎和弘 石井良平 鵜飼聡 水野(松本)由子
川口俊介 山本雅清 井上健 土山雅人 武田雅俊
  

 アルツハイマー型老年痴呆SDATと正常加齢脳は共通した形態学的変化をもつ.そのため正常加齢とSDATの初期例の鑑別が大きな臨床上の問題となっている.脳波は錐体細胞の先端樹状突起のシナプス電気活動の総和であり神経ネットワークの機能情報を反映しているので,痴呆のない正常加齢に伴う軽度の脳機能の低下をとらえるには鋭敏な結果を期待できる.大脳皮質全体を神経回路網とみなして各領域間における情報伝達の加齢性変化をとらえる目的で,安静時脳波を相対パワー寄与率解析で検討した.この方法は,局所の脳波律動の形成に関してその他の領域からの寄与率を定量的に評価できる.


【被験者および方法】高齢者50名(50歳代が13名,60歳代が21名,70歳代が17名,80歳代が9名)と健常若年者35名(20歳代)を対象とした.高齢者は神経学的に健常で痴呆のないことをMini Mental State Examination Score(24点以上)で確認した.脳波は,国際10-20法で19チャンネルから安静覚醒閉眼状態で両側耳朶を基準電極として記録した.サンプリング周波数は200Hz,解析区間は11秒間とした.


【解析】
前側頭部F7,F8,中心部C3,C4,後側頭部T5,T6,後頭部O1,O2の8部位の脳波に8次元自己回帰モデルを当てはめ相対パワー寄与率解析を求めた.解析の結果,いずれの領域でも自分自身の寄与が大きいが,その程度は,他の領域からの寄与がほとんどない領域と,逆に各領域からほぼ等分の寄与がある領域とにばらついた.そこで他の領域との関連の強さをエントロピー値で表現した.a波帯域(8.0−13.0Hz)について検討した.


【結果および考察】
相対パワー寄与率のa波帯域のエントロピーの有意な低下が,20歳代に対して50歳代では左後側頭部T5に,70歳代ではT5と右前側頭部F8にみられた.T5はTPO境界領域に,F8は右前頭前野に位置する.今回の結果は加齢性変化が50歳代にTPO境界領域に始まり,70歳代になると右前頭前野に広がることを意味しており,加齢性変化が領域選択的に,左右非対称に,後方連合野から前方連合野に進行することを示唆している.

2001/06/15


 演題一覧へ戻る