第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-12】

脳波関係

老年期の幻覚妄想状態に対するリスペリドンの治療効果と神経生理学的検査および画像診断成績との関連について
      
 

大阪府立病院精神科  田口智己 藤本修
大阪大学大学院医学系研究科神経機能医学講座
原田和佳 高森信岳 速水大輔 角典哲 花谷隆志 武田雅俊
大阪府立こころの健康総合センター  太田義隆
箕面神経サナトリウム  南野壽重
甲子園大学人間文化学部  西村健
  

【目的】老年期の幻覚妄想状態,いわゆる晩発性パラフレニーのリスペリドンを用いた薬物療法に対する治療反応性と,これらの発症に関与すると推定される脳器質的変化との関連を,神経生理学的検査,画像診断検査,知的機能検査などを用いて評価した.


【対象と方法】
60歳以後に幻覚妄想を発症した晩発性パラフレニー10名(60〜74歳,平均66.6±5.0歳)を対象に神経生理学的検査として脳波,体性感覚誘発電位(SER),随伴陰性変動(CNV),P300を,画像診断検査としてMRI,SPECTを,知的機能検査として改訂長谷川式簡易知能評価スケールと,一部の症例でADASを施行した.そしてこれらの症例にリスペリドンを投与し,治療反応性によって完全寛解群(A群),不完全寛解群(B群),不変群(C群)に分類した.また神経生理学的検査の対照群としては健康老人34名(60〜77歳,平均68.9歳)を用いた.


【結果と考察】
神経生理学的検査成績については,脳波は半数の5名で境界または異常所見で,また対照群に比較してSERのN3潜時は有意に延長,CNV振幅は有意に減少,P300潜時は有意差なしであった.画像診断成績については,MRIでは4名で大脳皮質の萎縮を,2名で白質の虚血性変化を認め,SPECTでは2名で左半球の血流低下を,2名で両側の血流低下を認めた.改訂長谷川式簡易知能評価スケールは全員が21点以上で,ADASは施行した全員が17点以下であった.リスペリドンに対する反応性は,A群(平均63.2歳)6名,B群(平均71.0歳)3名,C群(74歳)1名であった.予後良好なA群と予後不良なB・C群を比較すると,神経生理学的検査成績では予後不良群でCNV振幅が減少し,P300潜時が延長する傾向を認めたが有意差はなかった.一方画像診断成績では予後不良群で,MRIで萎縮と虚血性変化が,SPECTで脳血流の低下がより高率に認められる傾向があった.以上より晩発性パラフレニーにおいて,リスペリドンに対する治療反応性の不良な症例では,発症が比較的高齢で,神経生理学的検査成績に反映される高次脳機能の低下と,画像診断成績に反映される脳器質的変化をより多く認める傾向があることが示唆され,これらの検査を組み合わせることはこの疾患の予後の評価に有用であると考えた.

2001/06/15


 演題一覧へ戻る