【はじめに】塩酸ドネペジル(DPZ)は,わが国で初のアルツハイマー型痴呆(DAT)の治療薬として,1999年11月より用いられている.今回,われわれはDAT患者を対象に,DPZを投与するとともに,DPZ服用前および服用後3か月での,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),脳波,体性感覚誘発電位(SEP)および事象関連電位(P300)を記録し,その成績について比較検討した.
【対象と方法】対象は,NINCDS-ADRDAの診断基準にてprobable Alzheimer diseaseの基準を満たすDAT患者8名(男性5名,女性3名,平均年齢;66.0歳)であり,DPZを初期量3mg/dayより投与を開始し,投与後2週間にて副作用の発現のないことを確認のうえ,5mg/dayに増量し,服用を継続する治療プログラムを施行し,服用前および服用後3か月での改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),脳波,体性感覚誘発電位(SEP)および事象関連電位(P300)を記録した.なお,DPZによる治療および各検査の施行にあたって,患者および家族に趣旨の説明がなされ,了解が得られた.
【結果】DPZ投与前のHDS-Rの平均は13.8点であったが,投与後3か月では15.9点とわずかに上昇したものの,個々の症例をみると,3点以上の改善を示したのは3名でその他は不変であった.脳波検査では,徐波が減少する改善例が1例みられたが,逆に悪化例も1例認められた.SEPでは,頂点潜時が短縮する改善例が5例みられ,悪化はなかった.P300では,頂点潜時が短縮する改善例が3例みられたが,悪化例も2例認められた.
【考察】服用後3か月で,HDS-Rが改善した3例はいずれも服用前の得点が16点以上であり,改善がみられなかった5例中16点以上の患者は1名のみであった.脳波およびP300には明らかな改善傾向はみられなかったが,3か月での判定が短すぎることも考えられる.一方,SEPの成績は,改善例が多く,刺激に対する脳の反応性が改善しているように思われた.
|