第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-9】

診断

経過中著しい脳萎縮を呈した妄想性うつ病の一症例
      
 

神戸大学医学部精神神経科
煙久子 橋本健志 福武将映 平良勝
前田宏章 青山慎介 柿木達也 前田潔
  

 高齢者のうつは,非定型的な臨床像を呈し治療抵抗性の経過をとることがある.その背景には萎縮や血管障害などの脳器質性変化が関与していると考えられている.今回われわれは,幻覚・妄想を伴う抑うつ状態から亜昏迷状態となり経過中に著しい脳萎縮を呈した一症例を経験したので報告する.
 症例は70歳,女性.X−1年5月ころより,不眠,抑うつ,食欲不振が生じ,うつ病の診断にて近医精神科に通院していた.X年1月から上記症状に加え頑固さ,お金に対する異常なこだわり,心気妄想,希死念慮を認め,自殺企図に至り亜昏迷状態となったため同年2月神戸大学附属病院精神神経科に入院となった.入院時の頭部MRIでは脳器質性変化を認めず,うつ病性昏迷と判断しSSRIなどの抗うつ薬の投与を行ったが,亜昏迷状態が遷延し全身の筋緊張が顕著となった.炭酸リチウム,ミアンセリンに変薬ししだいに亜昏迷状態,筋緊張は軽快したものの,同時に幻覚・妄想が活発化した.現在はリスペリドン,チアプリドの追加により幻覚・妄想は軽減したが,筋緊張が再び増悪したためロラゼパム,クロナゼパム,ビペリデンを併用投与している.また同年12月の頭部MRIでは大脳全体の著明な萎縮が,SPECTでは広範囲にわたる脳血流量低下が認められ,脳器質性変化の関与が示唆された.

2001/06/15


 演題一覧へ戻る