第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-7】

診断

左優位の前頭・側頭葉萎縮を示した4痴呆症例の
臨床経過・診断について
      
 

横浜市立大学医学部附属病院神経科・
横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター神経科
桂城俊夫
横浜市総合保健医療センター精神科
斎藤惇 飯塚博史
横浜市立大学医学部附属病院神経科
井関栄三 小阪憲司
信州大学医学部附属病院精神科
天野直二
  

 前頭・側頭型痴呆は前頭・側頭葉に優位な萎縮をきたす症候群で,一方,特発性進行性失語症(PPA;primary progressive aphasia)は臨床症候に基づく概念であり,おもに左Sylvius裂に選択的異常が認められる.しかしながら,画像面から左右非対称萎縮を示す痴呆症例は,これまで十分な臨床的検討がなされていない.今回,前頭・側頭葉のとくに左優位に萎縮を示し,症状として広義の失語を生じ,時期を経て画像を調べえた右利きの4症例について,臨床的検討を行った.
 症例1は,61歳時に言葉のでにくさで発症した女性で,初診の63歳時にはGerstmann症候群があり,画像では左Sylvius裂の拡大が認められた.画像再検査時の65歳時では超皮質性感覚性失語が明確化し,両側脳室拡大が進行した.症例2は,66歳時に身体的不定愁訴で発症した女性で,初診の68歳時には明確な失語はなく被害妄想が主体で,画像では左海馬・左側頭葉萎縮が認められた.画像再検査時の71歳時では滞続言語があり拒絶的で,左前頭葉と右側頭葉萎縮も生じていた.症例3は,69歳時に生活がパターン化した女性で,初診の71歳時には読字(とくに漢字)障害があり,画像では左の海馬と側頭葉萎縮が認められた.画像再検査時の73歳時では言語は非流暢となり理解復唱も障害され,右側頭葉萎縮も生じていた.症例4は,79歳時に軽度のもの忘れが生じた男性で,初診81歳時には超皮質性感覚性失語があり,画像では両海馬と左側頭葉萎縮が認められた.画像再検査時の82歳では臨床症状や画像に著変はなかった.
 4症例とも初診時に確定診断に至らず,症例2を除く3例はPPA(失語以外の症状も比較的短期で生じているが)の概念に適合し,アルツハイマー型痴呆(ATD)と思われた症例4を除くとピック病(Pick)も考えられた.その後の臨床経過と画像の再検査から,症例1はATD,症例2はPick,症例3はPick or ATD,症例4はATDの可能性が高いと思われた.これまでにもわれわれはPPAを示すATDの剖検例を報告しており,文献と比較してもPPAのなかには,臨床経過を追うとATDが少なからずあるのでないかと考えられた.また,PPAに限らず,片側の萎縮を示す画像の報告は少なくないが,継時的にみるとやはり反対側にも萎縮が生じる可能性が高いと思われた.

2001/06/15


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