第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-5】

心理検査

痴呆性老人が自己申告する年齢とMMSEの変化の検討
      
 

駒木野病院心理科  若松直樹
昭和大学医学部精神神経科  三村將
駒木野病院内科  田中かつら
駒木野病院精神神経科  大野玲子 原常勝
東京歯科大学市川総合病院精神神経科  加藤元一郎
  

 痴呆性老人の臨床において,患者自身の年齢を尋ねても正確に答えられないことが多い.実年齢より若く答えた場合,それを逆向健忘によるものと解釈することが可能である.しかし,その一方で,実際よりも高い年齢を答える場合もあり,この場合,逆向健忘では説明がつかない.何らかの意識障害や記憶以外の認知機能障害の関与が疑われ,実年齢より若く答える患者と障害の様態やその後の経過が異なる可能性も推測される.今回われわれは,痴呆性老人の自己年齢申告の変化とMMSE総得点の変化を検討したので報告する.

【対象・方法】駒木野病院痴呆性疾患治療病棟に入院し,入院時および3か月後の時点において,自己年齢申告とMMSEの両方の課題を実施しえた109例(男性46例・女性63例.平均年齢,男性76.0歳・女性78.1歳).自己年齢を実年齢よりも3歳以上若く述べた場合を“過小評価(以下U)”群,3歳以上高く述べた場合を“過大評価(以下O)”群とし,±2歳以内を“許容範囲(以下N)”群とした.さらに,3か月後における自己年齢申告が入院時に比してどのように変化したかについて,U-U群(20例),U-O群(3例),U-N群(7例),O-U群(5例),O-O群(8例),O-N群(1例),N-U群(11例),N-O群(2例),N-N群(52例)に細分した.これら各群の入院時と3か月後についてMMSE総得点,および下位検査のうち見当識・3語の遅延再生・7の連続減算の変化を検討した.

【結果】入院時のMMSE総得点について,N群はU群・O群に対して有意に良好であったが(p<.01),U群とO群に差はみられなかった(p>.10)[U群12.3点,N群17.7点,O群12.5点].U群・N群においてMMSE総得点は有意に改善したが(それぞれp<.05,p<.01),これに対し,O群では有意な改善がみられなかった(p>.10).また,ことにU-N群,N-N群,すなわち自己申告する年齢が正常化する場合,MMSE総得点も改善傾向にあると考えられた.U-U群,U-N群においては見当識が有意に改善し(p<.01,p<.05),N-N群では,見当識・3語の遅延再生・7の連続減算が有意に改善した(p<.01,p<.01,p<.05).
【考察】入院時,自己の年齢を高く見積もる人は,自己年齢を正答する人や低く見積もる人に比べて入院後のMMSEの改善が期待できず,認知障害の進行が推測された.

2001/06/15


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