第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-3】

心理検査

塩酸ドネペジルを投与したアルツハイマー型痴呆患者の認知機能の推移に関する臨床的研究
      
 

浜松医科大学精神神経医学講座  星野良一 大橋裕 森則夫
岡本クリニック  岡本典雄 野島秀哲
  

 塩酸ドネペジル(ドネペジル)はアルツハイマー型痴呆(DAT)患者の認知機能障害に対する臨床的有効性が実証されているが,認知機能のどの領域に対して改善効果を有するかは十分に検討されていない.そこで,ドネペジルがDAT患者の認知機能の推移にどのように作用するかを,Mini Mental State Examination(MMSE),Clinical Dementia Ratings(CDR),ロールシャッハ・テスト(RCT)を用いて継時的に調査した.
 対象は痴呆専門外来を開設している静岡県内のAクリニックでDATと診断され,ドネペジル投与後経過観察できた24例(男性6例,女性18例,平均年齢73.9±7.7歳,軽度痴呆15例,中等度痴呆9例)である.対象全例が4か月経過した時点(4.1±0.3月)で1回目の再検査を受け,15例が8か月以上経過した時点(10.5±1.8月)で2回目の再検査を受けた.
 1回目の再検査時にCDRが低下した例はなく,MMSEは19.3±3.8で投与前の17.6±3.7に対して有意な得点の増加が認められたが(p<.05),RCTは−3.1±2.4で投与前の−3.3±2.8と有意な得点の差異は認められなかった.MMSEの項目別比較では計算で有意な得点の増加が認められたが(p<.01),図形の模写では得点の減少傾向が認められた.2回目の再検査時に中等度痴呆の1例が重度痴呆と評価された.MMSEは18.5±5.5で投与前の17.9±3.7と有意な差異は認められず,RCTは−3.4±2.6で投与前の−3.3±2.6と有意な差異は認められなかった.MMSEの項目別比較では時間の見当識で有意な得点の増加が認められたが(p<.05),遠隔再生で有意な得点の減少が認められた(p<.05).
 本研究の結果から,ドネペジルは記憶や抽象的思考能力に対する改善効果は認めにくく,見当識,計算など周囲への関心や注意の集中と関連する領域に改善効果を有することが示唆された.

2001/06/15


 演題一覧へ戻る