第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-1】

心理検査

軽度アルツハイマー型痴呆における認知機能障害構造
      
 

聖マリアンナ医科大学東横病院精神科  北村世都 今井幸充
  

【目的】痴呆のスクリーニングテストの開発には,ADの認知機能が,病期の進行とともにどのように変化し,どのように障害されていくのかについての知見が欠かせない.本研究では,まずHDS-Rを軽度ADに適用する場合の信頼性を検討したうえで,WAIS-RとHDS-Rの各下位検査を用いてAAMIと軽度〜中等度のADとの判別分析を行った.これによりAAMIと軽度AD,および軽度ADと中等度ADの認知機能障害の異同について示し,ADの認知機能がどのような減退の様相を呈するのかを明らかにすることを目的とした.

【対象】AD群:AD患者56名(M:19名,F:37名).臨床対照群:AAMI患者35名(M:18名,F:17名).認知機能障害の程度の評価はGDSを用いた.

【検査・評価票】患者の日常生活を把握するためにNMスケール,N-ADLを実施した.認知機能検査としてHDS-RおよびWAIS-Rを実施した.認知機能障害の重症度にGDSを用い,診断はDSM-IVによった.

【結果】1.下位検査と教育年数・年齢の相関:教育年数との有意な相関が認められたのは,ADにおいてはWAIS-Rの「理解」以外の言語性5下位検査,AAMIにおいてはWAIS-Rの「知識・単語・類似・絵画配列・符号」であった.年齢との相関についてADでは認められず,AAMIにおいてのみWAIS-Rの絵画配列・符号・HDS-R総得点で有意な相関が認められた.
 2.HDS-Rの信頼性の検討とADの判別:HDS-R総得点を説明変数として,AAMIからADを判別することを試みた結果,軽度ADの判別率は84.0%,全ADの判別率は83.5%であった.HDS-Rのクロンバックaは0.7842,また内部相関はAAMI群よりAD群で高いものが多かった.
 3.HDS-RおよびWAIS-R各下位検査を用いたADの判別:HDS-RおよびWAIS-R全下位検査を説明変数として,AAMIからADを判別することを試みた結果,軽度ADの判別ではHDS-Rの「物品記銘・日時の見当識」とWAIS-Rの「積木」が抽出され,判別率は85.71%であった.同様に全ADの判別ではHDS-Rの「物品記銘・日時の見当識」とWAIS-Rの「理解」が抽出され,判別率は85.71%であった.

【考察】(1)HDS-Rの「物品記銘・日時の見当識」は痴呆の進行に比例して低下し判別に寄与するが,WAIS-Rでは軽度AD,全ADでそれぞれ異なる認知機能が判別の指標となる.(2)HDS-Rは,ADでは年齢の影響を受けないが,AAMIではその影響を受けている可能性があり,スクリーニングで用いる際に考慮が必要である.(3)日時の見当識や,WAIS-Rの「積木・理解」で測定される認知機能は,記憶とは異なる要素を含んでおり,記憶以外の認知機能減退が背景にあることが示唆された.

2001/06/15


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