高齢者のターミナル・ステージにおける,キュアモデルから緩和ケアモデルへのパラダイムシフトは,リエゾン・コンサルテーション精神医学上よく出会う問題点である.当院においては,心理士がすべての病棟を回診する心理士中心のリエゾン・コンサルテーションシステムを実践している.今回,医師・看護・心理士の葛藤が生じ,発表者がスーパービジョンを行った事例を紹介する.
事例は68歳の男性高齢者.がんのためターミナル・ステージにあった.手術後身体苦を理由に病棟内で自殺企図があったことから,リエゾン・コンサルテーションの対象となった.その際は,身体不快の軽減と看護の積極的なかかわりが奏効し,2か月で退院した.ところが,術後,再入院となり再度関与を開始した.担当心理士は,看護への依存,将来の見通しが立たないことへの医療全般への不満,妻との共依存関係に着目し,日中のかかわりを増やして覚醒度をアップするようにアドバイスすると同時に,看護のかかわり方に対し保証を与えた.第一に,リエゾン・コンサルテーションに対する不満が看護から表出されるようになった.担当心理士と看護へのスーパービジョンの結果,看護初回入院の際の看護の成功体験から今回の予想外に急速な病状増悪を受容しがたく,無力感を感じていることが明らかにされた.また,妻が介護疲れから,今後のケアの計画を立てられない状況になっていることも明らかとなった.看護と,家族をサポートしながら在宅ケアを目指した取組みをすすめていくことで一致した.次に主治医が,看護から主治医の指示の一貫性のなさ,麻薬性鎮痛薬使用による全身状態の悪化で責められた.担当心理士と主治医に対するスーパービジョンの結果,主治医はキュアモデルにこだわり,緩和ケアモデルへと変更することに逡巡していることがわかった.一人娘への協力依頼も,患者と妻のいうがままに延期を繰り返し,結果として実のあるケアプランを立てられないでいることが明らかとなった.ターミナル・ステージの患者であることの受容,家族の意思の尊重などの原則を確認したのち,主治医サイドは結果として,一人娘を中心とした家族に,リハビリテーションを中心とした病院への転院を経て施設ケアをという案を呈示し,家族も同意した.本事例から,高齢者のターミナル・ステージにおける,キュアモデルから緩和ケアモデルへのパラダイムシフトの実際的諸問題について論じる. |