第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II A-7】

社会対応

地域福祉権利擁護事業における契約締結能力の判定
      
 

東京都精神医学総合研究所  五十嵐禎人 西山詮
  

 高齢化社会の進展を背景に,介護保険制度の実施,社会福祉基礎構造改革の推進により,福祉サービスは従来の措置制度から選択・契約制度へと変革された.こうしたなかで判断能力が不十分な者に対する,あらたな援助・保護の法的枠組みとして,成年後見制度の改正や地域福祉権利擁護事業の創設などが行われた.これらの制度の利用にあたっては,利用者の判断能力の判定が不可欠である.
 地域福祉権利擁護事業は,痴呆性高齢者,知的障害者,精神障害者など判断能力が不十分な者を対象として,福祉サービスの利用援助を行うことにより,その者の地域における自立を援助し,またその権利を擁護することを目的として,厚生省の補助事業として1999年10月より開始された.
 地域福祉権利擁護事業では,利用者本人の意向を確認しつつ作成される支援計画に基づき,基幹的社会福祉協議会が本人と利用契約を締結し,個々の契約内容に基づいた援助を生活支援員が行うかたちとなっている.地域福祉権利擁護事業で実施する援助内容としては,(1)福祉サービスの利用援助を基本として,(2)日常的金銭管理サービス,(3)書類等の預かりサービスがある.また,利用者に対するセーフ・ガードとして,契約締結審査会,運営適正化委員会などの制度が設けられている.
 本事業は,民法上の委任代理契約であり,契約に際しては,本人に契約締結能力があることが前提となる.契約締結能力の判定については,全国社会福祉協議会が作成した契約締結判定ガイドラインがあり,これに基づいて基幹的社会福祉協議会の専門員が利用者の契約締結能力を判定する.能力に疑義のあるケースについては,都道府県社会福祉協議会に設置された,契約締結審査会(法律,医療,福祉の各領域の専門家により構成)においてその適否を審査することとなっている.
 今回は,東京都社会福祉協議会の契約締結審査会における,審査の実情について報告する.2000年4月から12月までの相談件数は2,990件,契約件数は40件であった.このうち契約締結能力に疑義ありとして,契約審査会で審査されたのは5件であり,いずれも精神科医が訪問面接した.当日は,事例を増やすとともに,とくに問題となった事例について検討することとしたい.

2001/06/15


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