本研究はエピソード記憶障害を示す早期のアルツハイマー型痴呆患者において,その記憶障害の構造の検討を健常者と対比して行うものである.今回使用する物品の位置記憶の検査はすでに開発し,痴呆重症度の影響について前回報告済みである.今回は,被験者数を増やしてこの検査を実施するとともに,施行手順が学習効果へ及ぼす影響の有無も検討する.
【対象と方法】対象は痴呆疑い群が11例(平均年齢75歳),軽度重症度群は15例(同75歳),中等度重症度群は22例(同74歳).健常群は56例(年齢20〜85歳)である.作成した位置記憶検査の手順は既報告どおりで,(1)1枚の図版に1つの物品の線画カードを各物品に固有の相異なる位置に置いたものを10枚用意し,それらの相異なる図版を順次呈示して各物品とその位置の組合せを記銘させ,(2)その後,固有の位置にあった各物品の線画を1/2の選択法で再認させる(物品再認).(3)この記銘【(1)】と物品再認【(2)】とによる学習を5回反復した直後に各物品の線画のあった固有の位置を1/2の選択法で再認させる(位置再認).(4)30分後に物品再認と位置再認とを再度行う.一部の被験者では,5回の反復学習を記銘【(1)】,位置再認【(2)】の順で行う施行手順でも実施し,両者の結果を比較して検討した.
【結果とまとめ】(1)健常者と患者群とではこの検査の成績に有意差があり,患者群では偶然のレベルと同等と判断された.(2)物品再認と位置再認の成績には差がなかった.(3)健常者では加齢とともに成績はゆるやかに低下する傾向にあった.(4)反復学習の施行手順の二方法による成績差は今回検討した一部の被験者では有意でなかった.これらの結果から,物品とその位置との連合の記憶はアルツハイマー型痴呆の患者では疾患の早期から障害されていること,健常者でも加齢による低下が存在することが認められた.この位置記憶検査のアルツハイマー型痴呆の記憶障害の評価への有用性が示された.
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