第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I B-19】

神経心理

強迫性障害における言語性短期記憶障害と加齢の影響
      
 

三井記念病院神経科・東京大学大学院医学系研究科  澤村香苗
三井記念病院神経科  井上雅之 中嶋義文
  

 年齢,教育年数に差がない強迫性障害患者(以下OCD患者)16名(範囲25-74歳:男12名,女4名)と健常対照者16名(範囲24-70歳:男8名,女8名)を対象として,Iddonらによる言語性記憶課題を用いた実験を行った.ひらがな単語20語からなるリストを1分間で記憶する課題を2度行ったが,単語の再生数がOCD患者群(平均=15.6,S.D.=5.3)では健常対照者群(平均=21.1,S.D.=7.2)より有意に少なかった(p<0.01).また,単語の再認数がOCD患者群(平均=26.8,S.D.=10.4)では健常対照者群(平均=34.0,S.D.=5.6)より有意に少なかった(p<0.05).再生の際に用いた方略についてスコアを算出したが,意味的方略スコアがOCD患者群(平均=3.7,S.D.=3.6)では健常対照者群(平均=7.5,S.D.=5.0)より有意に少なかった(p<0.05).また,刺激語をカテゴリー分別する時間が,OCD患者群(平均=53.7秒,S.D.=25.1)では健常対照者群(平均=38.1秒,S.D.=9.1)よりも有意に長かった(p<0.01).OCD患者は言語性短期記憶能力に障害があり,刺激語の意味を方略として用いることが困難であった.それは刺激語の意味カテゴリーを正しく判断するのに時間がかかることに起因すると推測される.
 単語の再生数とカテゴリー分別時間には年齢の主効果があり,加齢に伴い再生数は低下,カテゴリー分別時間は延長したが,単語の再生数には群×年齢の交互作用が認められ,健常者において加齢に伴い単語の再生数が減少(R2=0.44)するのに対し,OCD患者群では加齢に伴う減少は認められなかった.
 高齢者における強迫性は,記憶に対する強いこだわりというかたちをとることも多く,臨床上痴呆性疾患との鑑別の際に重要となる.本研究は,今後高齢発症のOCD患者や,高齢者の認知機能における強迫性の影響を検討するうえで参考となるであろう.

2001/06/13


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