第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I B-17】

神経心理

重度失語症患者と歌唱について;認知リハビリテーションの見地から
      
 

東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学  山口智 石崎淳一 目黒謙一 山鳥重
杜都中央病院  出雲宏昭
  

【背景】重度失語の患者に歌唱をさせると,歌詞表出が意外なくらい良好な場合がある.重度の失語でありながら,歌詞表出が良好であることは発語のメカニズムが異なるからであると思われる.今回われわれは3例の重度失語患者の歌唱を検討し,リハビリの見地より検討を加えたので報告する.

【目的】言語表出と歌唱時の歌詞表出について検討し,さらに歌唱練習による歌詞表出の変化ならびに歌唱を用いたリハビリの効果について検討する.

【対象と方法】当科にて加療を受けた失語のタイプが異なる3名の重度失語患者に画像検査(MRI,SPECT)と標準失語症検査を施行,次に,歌詞の表出がとくに良好な曲を音楽テープや歌集をもとに一緒に歌いながら発掘し,発語障害と歌唱時の歌詞表出の程度を評価,さらに歌詞表出が不十分な歌を繰り返し歌唱練習させ,習得前後の歌詞表出と発語障害の変化について評価した.

【結果・考察】失語のタイプが異なる3名とも発語障害の程度と,歌唱時の歌詞表出に明らかな差を認め,言語表出の程度と歌詞表出の程度は平行しないとする従来の報告を裏づけた.また歌唱練習後,2曲で歌詞表出の向上がみられたが,歌詞の復唱は変化なく,標準失語症検査の変化も乏しく,言語表出面の向上は確認できなかった.歌唱時の歌詞表出は言語表出とは異なる機序による発語と考えられ,旋律とともに歌詞が正しく再生されること,3症例とも右半球の機能が保持されていることから,右半球関与の発語である可能性が示唆された.音楽を介して発揮される高次機能が存在すると考えられ,失語症のみならず,健忘症や痴呆症患者の記憶や認知のリハビリにも活用され,AD患者における歌唱を含めたグループワークセラピーの効果も報告されている.音楽療法は言語面のみならず情緒面の効果も大きく,本症例でもストレス軽減やリハビリ意欲の向上が認められた.総合的なコミュニケーションセラピーとしてその重要性は今後ますます高まると考えられる.
[参考文献]Int J Geriat Psychiatry, 15 : 532-535(2000).

2001/06/13


 演題一覧へ戻る