第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I B-16】

神経心理

Frontotemporal lobar degeneration軽症例の
認知機能障害
      
 

兵庫県立高齢者脳機能研究センター臨床研究科  数井裕光 橋本衛 森悦朗
  

 Frontotemporal lobar degeneration(FTLD)(Nearlyら,1998)の行動異常についての検討はこの症状が病初期から目立つこともあり,これまでにもなされてきた.しかし認知機能障害についての検討はいまだ少ない.今回,われわれは認知機能が評価可能なFTLD軽症例をNearlyらに従いFrontotemporal dementia(FTD)とSemantic dementia(SD)に分類し,これらと初期のアルツハイマー病(AD)患者の認知機能障害を比較した.


【対象と方法】FTLD例は,平成6年1月〜平成12年12月までに当施設で入院精査しFTLDの臨床診断基準を満たした102例のうち入院時MMSEが20点以上であった22例.この22例をさらにFTD群16例(男7,女9,年齢59.1±7.5歳,教育年数11.1±3.0年,MMSE24.6±2.7)とSD群6例(男4,女2,年齢63.2±6.4歳,教育年数12.8±3.7年,MMSE23.7±3.4)とに分類した.対照のAD群30例と健常者(NC)群10例はFTD群,SD群と年齢,性別,教育年数に差がなく,さらにAD群はMMSEでも差がなかった.この4群に対して,WMS-Rの物語および図形の即時・遅延再生と数唱課題,ADASの見当識課題,WABの語想起と物品呼称課題を施行した.さらに患者群に対してはRCPMとWAIS-Rの積木模様課題も施行し,結果を分散分析およびpost-hoc Turkey testで解析した.


【結果】FTDでNCよりも有意に成績が悪かったのは物語および図形の即時および遅延再生,数唱,語想起であった.ADとの比較では数唱,語想起,RCPMで成績がより悪く,物語および図形の遅延再生で成績がよかった.SDでNCよりも有意に成績が悪かったのは物語の即時および遅延再生と図形の遅延再生,語想起,物品呼称であった.ADとの比較では物語の即時再生,語想起,物品呼称で成績がより悪く,図形の遅延再生,RCPMで成績がよかった.FTDがSDよりも有意に成績がよかったのは,物語の即時再生,物品呼称で,悪かったのはRCPM,積木模様であった.一方ADはNCより物語および図形の即時および遅延再生,数唱,見当識,語想起で成績が悪かった.すなわちFTDでは数唱,語想起,RCPMが強く障害されるが,見当識,物品呼称は保たれやすい.SDでは物語の即時および遅延再生,語想起,物品呼称は強く障害されるが,図形の即時再生,見当識,RCPM,積木模様は保たれやすい.これらの認知機能障害のパターンを知っておくことは軽症でかつ行動異常が目立たないFTLD患者の鑑別診断に有用である.

2001/06/13


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