第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I B-13】

治療

痴呆を呈した進行麻痺の1治療例
      
 

兵庫医科大学精神科神経科学教室
西井理恵 後藤恭子 下出泰子 眞城英孝 三和千徳 植木昭紀 守田嘉男
  

 進行麻痺は,梅毒トレポネーマにより中枢神経系全般に炎症と実質組織の変性をきたす髄膜脳炎である.今日まれな疾患であるが,早期診断により治療可能な点で現在でも重要な痴呆性疾患である.われわれは進行麻痺に対するペニシリン大量静注療法の効果を髄液,免疫学的,神経心理学的,脳波および画像検査により評価し,それらの改善について若干の考察を加えて報告する.


 67歳,男性.20年ほど前に性行為感染症の機会があったが自覚症状はなかった.1年半前に躁状態,1年前に幻覚妄想状態となり,某精神科で抗精神病薬が投与された.半年前から無銭飲食,道に迷うことがあり,もの忘れが目立ち当科を受診した.表情は弛緩し,了解は悪く,だらしなく,投げやり,易刺激的であった.精神症状,神経学的所見,血液,髄液検査から進行麻痺と診断した.ペニシリンG 2400万単位/日,10日間静注を1クールとして4クール施行後,投げやりでだらしなさ,了解の悪さは残ったが,易刺激性はなく,協力的となり抗精神病薬は不要となった.Argyll Robertson瞳孔は残存したが,歩行障害,構音障害は改善した.TPHA(血清256,髄液64倍),FTA-ABS(血清5120,髄液320倍)に変化はなかった.髄液細胞数92/3から9/3,蛋白81から46,IgG 23.1から9.9,IgG index 1.43から0.73と改善,脳波はq波が消失した.三宅式記銘力検査(有関係2-2-2)に変化はなかった.HDS-Rは17から20,WAIS-RはVIQ 79から84,PIQ 69から77,TIQ 73から80,WCSTは達成カテゴリー0から4,保続19から6と若干の改善を認めた.MRI検査で認めた前頭側頭葉中心の全般性の皮質の萎縮,側脳室の拡大に改善はなかった.SPECT検査にて前頭葉優位のびまん性大脳皮質領域血流低下は前頭葉で改善を認めた.精神神経症状,髄液,脳波,SPECT所見の改善は,治療により脳実質の炎症が消退し前頭葉を中心とした脳組織の機能低下や意識障害が改善したことの反映と考えられた.しかし,非可逆性の大脳皮質の萎縮により認知機能障害は残存したものと思われた.

2001/06/13


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