【目的】当院の入院依頼は,他院での入院継続が困難であったり,家庭での介護が困難であったりするケースが多い.しかしながら痴呆症の中核症状(認知機能障害)のみで入院となるケースはまれで(今回の調査では91例中4例のみであった),むしろ周辺症状(非認知機能障害)が入院の要因となっている.そこで当院入院時における患者の症状の特徴をとくに周辺症状に注目して,retrospectiveに検討を行った.
【対象】調査期間は2000年7月〜12月までの6か月間とした.対象となった症例は67例(男性40例,女性27例)であり,平均年齢は78.7±8.6歳であった.疾患別では,アルツハイマー病の痴呆14例(20.9%),血管性痴呆28例(41.8%),混合性痴呆25例(37.3%)であった.
【方法】入院時に改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)と柄澤式「老人知能の臨床的判定基準」(以下柄澤式)を行っており,さらに入院要因となった周辺症状(非認知機能障害)を「痴呆の行動と心理面での症状」(以下BPSD)という概念に基づき,「心理面」(不安,抑うつ,被害妄想など)と,「行動面」(徘徊,暴力,興奮など)とに分けて比較した.ただし,身体疾患や精神病などの症例は除外した(20例).
【結果】入院経路については,外来からの入院が67例中26例(38.8%)で,転院は41例(61.2%)であった.また「紹介」での入院は58例(86.6%)で「紹介なし」は9例(13.4%)であった.性別,入院経路,紹介の有無について,年齢,HDS-Rの得点でとくに差は認めなかった.柄澤式では「軽度〜中等度」「高度〜最高度」と2群に分けて,年齢,HDS-Rの得点を比較した.その結果,年齢では差はなかったが,HDS-Rは「高度〜最高度」群が「軽度〜中等度」群より有意に低い得点であった(p<0.05).そして入院要因となった周辺症状(BPSD)では,「心理面」が「行動面」よりも年齢が有意に高かった(p<0.05).一方でHDS-Rでは「行動面」が「心理面」よりも低い得点ではあったが有意差はなかった.
【結論】痴呆症患者が当院へ入院となる要因は,そのほとんどが周辺症状(非認知機能障害)である.そして症状の特徴は,より高い年齢層では「心理面」の症状が問題となり,若い年齢層では「行動面」の症状が問題となっていた.
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