第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-19】

症状学

術前検査段階でせん妄をきたした高齢患者に対する
術前術後の薬物治療を検討した1例
    
 

天理よろづ相談所病院精神神経科 奥村和夫
天理よろづ相談所病院耳鼻咽喉科 河田恭孝
天理よろづ相談所病院麻酔科 塩見由紀代
  

【はじめに】高齢者のせん妄に対する治療薬としてrisperidone(RIS)を使用した報告は近年散見されるようになってきたが,術後せん妄に対するRISの使用に関してはほとんど報告がない.
 せん妄が臨床上問題となるのは,発症が急激で日中の動揺があり,多様な精神症状のため基礎疾患の治療の妨げとなり,治療継続が困難となるためである.今回,悪性腫瘍の確定診断のため,全麻下での術前の検査後にせん妄(DSM-IV)をきたした高齢患者にRISを使用したが,その後基礎疾患に対する手術も予定どおり施行され,術後経過良好のため退院となった症例を経験した.


【症例】症例は83歳の男性.精神疾患の既往歴・家族歴はない.2000年4月声のかすれを主訴に当院耳鼻咽喉科初診.同年5月laryngeal carcinomaの疑いで同科入院.確定診断のためbiopsy(under general anesthesia)施行後からせん妄状態となる.同年5月20日からRIS 0.5 mg/日投与開始.同年5月24日total laryngectomy施行.術後経過良好のため同年6月24日退院.退院に伴いRISは漸減し中止とした.


【考察】RISのせん妄状態の改善に対する作用機序は明らかではなく,D2受容体拮抗作用による抗幻覚妄想や鎮静作用,5-HT2A拮抗作用による睡眠覚醒リズムの改善などが可能性として考えられる.
 このような症例報告はこれまでなされておらず今回がはじめてであるが,本例からは,高齢者の術後せん妄に対しRISの低用量投与が薬物治療の有効な選択肢のひとつになると考えられた.

2001/06/13


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