第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-17】

症状学

家族歴を有する若年発症のAlzheimer型痴呆の
1臨床例に対する塩酸ドネペジルの効果    
 

大阪大学大学院医学系研究科神経機能医学講座
         熊ノ郷卓之 中川賀嗣 田中稔久 重土好古 武田雅俊
大阪大学健康体育部健康医学第三部門
         菅沼仲盛  足立浩祥 三上章良 杉田義郎
  

【目的】家族歴を有する若年発症のAlzheimer型痴呆の1臨床例に塩酸ドネペジルを投与し,その前後での臨床症状および神経心理検査,[99mTc]HMPAO SPECTの変化を評価した.


【症例】
36歳,右利き,女性.短大卒,独身女性.家族歴は父が30代後半で健忘症状出現.34歳ころから健忘症状,行動の異常が出現.A医院を受診し,解離性障害と診断されていたが,治療効果が得られないため当科受診.記憶障害が前景に立ち,認知障害も認め,脳神経系,知覚,運動系,小脳系には明らかな異常を認めず,頭部MRI,SPECT,血液および髄液検査(Ab42,tau)の結果から,DSM-IVに従いAlzheimer型痴呆中等症と診断した.


【方法】
Alzheimer型痴呆の診断後,塩酸ドネペジル3mgの投与を開始し,2週後より5mgにまで増量し,維持量とした.治療まえにCDRを用いて重症度を評価し,神経心理検査としてWAIS-R,N式精神機能検査と三宅式記銘力検査を行った.治療開始(5mg経口投与開始)後,CDRを用いて臨床症状の重症度の経過を追いながら,4週後にWAIS-R,8,12週後にN式精神機能検査,三宅式記銘力検査をそれぞれ再検査し,評価した.また治療開始4,12週後にSPECTを行った.


【結果と考察】
治療12週を経過して,他者との交流時間が増し,自発性言語が増えたことが認められた.検査に対する意欲が増したことも認められた.しかし,日常生活能力が大きく改善するには至らなかった.WAIS-Rでは,言語性IQが53点から4週後には55点と点数的にはあまり変化がなかった.N式精神機能検査では,合計得点が40点から12週後には57点に上昇した.三宅式記銘力検査の有関係対語試験では,1回目の得点が2点から12週後には5点に上昇した.記憶における記銘障害についてはやや改善,語想起については明らかな改善がみられたと判断できた.SPECTでは,治療まえから両側頭頂葉で著明な低集積像があり,両側側頭葉内外側面の集積は保たれていた.治療4週後には両側頭頂葉から後頭葉,側頭葉にかけて血流低下領域を認めた.側頭葉は右に比較して左のほうが血流低下の程度が強かった.やや進行していると判断できた.治療12週後には,両側頭頂葉から後頭葉,側頭葉にかけてほぼ対称的に脳血流の低下が目立った.側頭葉内側面の血流低下も認めた.さらに血流低下が進行していると判断できた.

2001/06/13


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