第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-15】

症状学

介護療養型医療施設における介護上の事故の要因分析;骨折事故と廃用症候群の関連性について
  
 

青梅慶友病院 中間浩一
東京学芸大学教育学部 松田修
  

【はじめに】当院は許可病床数836床の介護療養型医療施設であり,入院患者の平均年齢が86.6歳,約80%が中等度〜重度の痴呆を有している.入院患者が安全で,質の高い生活を送るためにも,骨折や転倒などの事故防止が重要である.院内で発生した事故の背景を整理すると,歩行可能な患者では歩行時やトイレ使用時に転倒する事故が多かった.一方,筋力低下や関節拘縮のために廃用症候群の状態にある患者では,着替えや入浴介助の際に起こる介護上の事故が多かった.今回,介護上の事故に焦点をあて,事故発生の背景を検討したところ,廃用症候群と介護上の事故の関係について若干の知見を得たので報告する.


【対象と方法】対象は,当院入院患者463名である.対象者の平均年齢は86.8歳(S.D.=6.1),男性83人,女性380人であった.このうち,平成11〜12年に,介護上の事故によって骨折した患者35人を「事故あり群」とし,残りの428人を「事故なし群」と分類した.介護上の事故とは「入院患者自身による転倒や転落等による事故ではなく,看護・介護職または入院患者の家族によって起こった事故」とした.
 廃用症候群の指標として,「中等度〜重度の痴呆」「筋力低下」「関節拘縮」「骨密度の低下」「便秘」の5項目を評価した.これらの項目の有無を0−1評定し,5項目の合計得点を算出し,これを廃用症候群の程度を表す指標として用いた.「事故あり群」と「事故なし群」の廃用症候群の程度をt-検定により比較した.さらに,介護上の事故が起こった状況について,事故報告書をもとに整理した.


【結果と考察】「事故あり群」と「事故なし群」の廃用症候群の程度に有意差が認められ,「事故あり群」(M=3.3, S.D.=1.1)が,「事故なし群」(M=2.4,S.D.=1.1)よりも廃用症候群の程度が高かった(t(39.7)=−4.5,p<0.001).事故状況を整理すると,オムツ交換や入浴介助,関節可動域訓練などの際に事故が起こっていた.これらの結果,介護上の事故と廃用症候群の関連性が示唆された.介護上の事故防止には,廃用症候群の予防に加えて,オムツ交換や入浴介助等の具体的なケア方法の再検討とスタッフの「教育」「家族指導」が重要なことが示唆された.

2001/06/13


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