第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-12】

症状学

随意的閉眼困難を呈した痴呆を伴う
筋萎縮性側索硬化症の2症例
  
 

神戸大学医学部精神神経科  大川愼吾 柿木達也 前田 潔
俊仁会大植病院  大植正俊
  

 随意的閉眼困難を呈した痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症の2症例について報告する.


 症例1は49歳の女性.既往に糖尿病,高血圧(治療中,血中HbA1c正常範囲内,血圧正常).家族歴に脳梗塞.1995年に右手の脱力が出現した.その後,左手の脱力,歩行障害,構音障害,嚥下障害が加わり徐々に進行した.1996年12月の診察時,自発性低下,強迫泣き笑い・感情失禁,計算障害,注意集中障害がみられた.神経学的検査では,随意的閉眼開始困難・閉眼維持困難がみられたが,反射的閉眼,自然閉眼は正常であった.両側顔面麻痺,舌の萎縮・筋力低下・線維束攣縮,軟口蓋麻痺,下顎反射亢進,上肢優位の四肢筋萎縮・筋力低下・線維束攣縮,両側鷲手,四肢腱反射亢進,両側Babinski徴候陽性,痙性歩行を認めた.小脳症状,感覚障害,膀胱直腸障害は認めなかった.頭部MRI,SPECTでは両側前頭葉に萎縮,血流低下を認めた.針筋電図では神経原性変化を認めた.


 症例2は68歳の女性.既往に甲状腺機能低下症(治療中,血中TSH・F-T4正常範囲内).家族歴は特記なし.1999年12月より構音障害が出現し,嚥下障害,四肢の脱力が加わった.症状は徐々に進行し,2000年6月の診察時には発語不能で,自発性低下,感情鈍麻がみられた.神経学的検査では随意的閉眼開始困難がみられたが,反射的閉眼,自然閉眼は正常であった.また,舌の萎縮・筋力低下・線維束攣縮,口とがらせ反射陽性,下顎反射亢進,上肢優位の四肢筋萎縮・筋力低下・線維束攣縮,両側鷲手,四肢腱反射亢進,左Babinski徴候陽性,起立不能を認めた.感覚障害,膀胱直腸障害は認めなかった.頭部MRI,SPECTでは両側前頭葉に萎縮,血流低下を認めた.針筋電図では神経原性変化を認めた.


 本2症例は脳血管障害,甲状腺機能低下症を除外する必要があるが,臨床,血液検査,筋電図,神経画像の所見から痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症と診断した.痴呆を伴う運動ニューロン疾患(三山型痴呆)は前頭側頭型痴呆の一型とされ,閉眼困難を示す例の報告が散見されるが,本2症例もまたこれらと類似した例と考えた.

2001/06/13


 演題一覧へ戻る