第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-8】

症状学

高次脳機能障害者の能力障害について
  
 

群馬県精神保健福祉センター  宮永和夫
群馬大学医学部神経精神医学教室  米村公江
東京女子医科大学病院リハビリテーション部  比留間ちづ子
国際医療福祉大学保健学部作業療法学科  荻原喜茂
  

【目的】高次脳機能障害およびその障害より二次的に生じた能力障害(生活障害)の内容について,他の障害者(知的障害,精神障害)のそれと比較し,相違点があるかを検討した.


【対象者】
脳損傷者は454名(男性365名,女性89名)で,対照群は,知的障害者は71名(男性46名,女性25名),精神障害者は127名(男性79名,女性48名:デイケア通所者)およびその他の群であった.


【方法】
調査は,家族ないし施設にアンケートを送り,家庭では家族に,施設では責任者/担当者に,それぞれの質問に対する回答を求めた.アンケートの内容は,生活上にみられる症状の有無の判断と,その程度の10段階評価である.


【結果】
1.脳損傷者には,知的障害者や精神障害者と区別される特徴的な症状があった.
 2.脳損傷者の身体障害者等級は,ADL,社会適応,記憶障害,見当識障害,注意障害と関連性がみられた.しかし,問題行動,判断力障害,人格変化,感情障害とは関連が認められなかった.
 3.身体と認知の両方の障害合併者には,認知障害のみで身体障害を認めない者と類似した所見がみられた.しかし,身体障害が中心の者とは所見が違っていた.
 4.脳損傷者の症状の内容は,受傷後の経過期間とは関連性がなかった.


【まとめ】
脳損傷者にみられる機能および能力障害の内容は,精神障害者のそれとは明らかに違っていた.また,身体障害を示す群と示さない群には違いがなかった.


【注釈】
高次脳機能障害(higher brain dysfunction)とは,「器質性精神障害(organic mental disorders)にみられる高次の機能障害(意識障害,注意障害,見当識障害,記憶障害,判断力障害,遂行能力障害,人格変化,感情障害,幻覚・妄想,巣症状)を意味し,低次の機能障害(運動障害,感覚障害,自律神経症状)を除く」と定義した.その結果,痴呆は全般的な高次の機能障害に,脳損傷は部分的・要素的な高次の機能障害にそれぞれ区別できるが,高次脳機能障害として同一概念でとらえられる.

2001/06/13


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