【背景】アルツハイマー病(AD)患者における地誌的機能障害はその臨床経過において早晩みられる徴候のひとつであり,介護上の大きな問題である.これまでの実証的検討はおもに巣症状の観点から行われたが,方法や対象患者のレベルなど問題が多かった.また,SPECTなど脳機能画像による検討はほとんどなされていなかった.
【目的】ほぼ記憶障害だけを認め全般痴呆化のない軽度AD患者において,未知の道筋をたどる能力と相関する局所脳血流がどこにみられるかを明らかにする.
【対象と方法】対象は以下の条件を満たす.ADと診断され,明らかな巣症状がなく,十分な歩行能力を有する.MMSE20点以上,WAIS-RによるIQ90以上,年齢が75歳以下.また正常対照として22名,進行したAD対照12名を設定した.武蔵病院内で参加者すべてにとって未知の2コース(いずれも約180m:交差6か所)を設定し,まず往路は検者が付き添った.次いで,遂行すべき課題が書かれたメモを持って参加者一人で復路を,さらに再度往路を歩いてもらった.試行の結果を点数化してアウトプットの成績とした.一方,同じ時期に99mTc-ECDを用いて静的状態においてSPECT撮影を行った.そして成績と相関する脳血流がどこにみられるかを画像統計的に検討した.なお,約40%の対象では1年後に同じ検査を行った.
【結果】対象56名の年齢は68±7歳,MMSE24±3点,IQ98±10である.まずテスト・再テスト信頼性を確認した.また,既知グループ法によりこの方法の妥当性を検討した.この課題に対し正常対照はすべてが往復ともたどれ,MMSE12±5点のAD対照はすべてが不能であった.また対象では成績はほぼ正規分布を示した.よって本方法はAD患者のあらたな道筋をたどる能力を測定するテストとして妥当性を有すると考えられた.
対象は正常対照に比べ,両側の頭頂葉から側頭葉にかけて,また,両側海馬で局所脳血流が有意に低値を示した.また,成績と相関する局所脳血流は右の頭頂葉で認められた.これらの結果は1年後の再検査において再現された.
【考察】この課題の能力基盤は視覚記銘にあり,右頭頂葉の血流が低下し始めると障害が露呈してくると考えた.
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