第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-5】

症状学

痴呆を示す老年期アルコール依存症者の前頭葉機能
 

八事病院精神科  奥田正英 佐藤順子 吉田伸一  水谷浩明 濱中淑彦
  

 老年期のアルコール依存症者のなかには,痴呆状態を示し記憶障害が比較的軽度であるにもかかわらず,意欲低下や無関心など前頭葉障害を示唆し,社会復帰や日常生活に支障をきたしている症例を認める.今回は老年期のアルコール依存症患者から痴呆を示す症例を選び,予備的に前頭葉機能を検査したので,その結果を報告する.今回の対象は,当院のアルコール専門病棟での治療を求めて来院したアルコール依存症の老年期の患者のうちで,HDS-RあるいはMMSEで痴呆とみなされたものである.症例数は7名(男性7名,平均年齢73±5歳)であり,明らかな脳器質性障害の既往や重篤な身体合併症を認めなかった.前頭葉機能の検査としてWord Fluency,Letter Fluency,Trail Making,Stroop Testを実施した.その結果,Word Fluencyの「動物」が9.3±2.1,「野菜」が7.8±2.2,「家の中」が6.0±1.4であり,Letter Fluencyでは「あ」が4.3±3.0,「か」が5.0±2.6,「さ」が5.3±1.3であった.Word Fluency,Letter Fluencyともに低下していた.Trail MakingではA94.3±34.0,B>300でありA,Bで明らかに差を認め,Stroop TestではA40±7.5,B54.3±6.8であり,A,Bに差を認めなかった.
 以上のように,痴呆を示す老年期アルコール依存症者の前頭葉機能は,神経心理学的にも低下を示唆する所見であったが,今後さらに症例を増やし,またNMWCSTなども加えて検討したい.

2001/06/13


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