第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-4】

症状学

老年期全般性不安障害の心理学的,生物学的特徴
 

国立療養所松籟荘  瀧本良博 田伏薫
大阪府立病院精神科  藤本修 田口智己
  

【目的】全般性不安障害(以下GAD)は20〜30歳に多いという報告があるが,65歳以上の高齢の患者にもしばしばみられる.老年期のGADの発症については,環境や状況に依存するのみではなく,人格構造,脳の老化や認知機能障害など種々の要因が関連していることが推測される.したがって治療にあたっては薬物療法,精神療法とともに環境調整や福祉施設との連携などケースワーク的なかかわりを進めていく必要がある.今回,われわれは老年期GAD25例について心理学的,生物学的に検討し,老年期のGADの特徴の抽出を試みたので報告する.


【対象と方法】
対象はDSM-WのGADの診断基準を満たした65歳以上の高齢者25名(男4名,女21名,年齢65〜83歳,平均73.5歳±4.9)である.臨床症状,性格傾向,生活環境について調査し,MRI,EEG,およびHamilton Anxiety Scale(HAS)を全例に行った.


【結果】
性格傾向では,森田神経質を呈するヒポコンドリー性基調,依存的性格,執着性格,その他に分類された.生活環境では,独居が8例のみで,むしろ保護的な状況下にあったが,夫婦関係の満足度の低い者が多かった.臨床的特徴として,薬物や点滴に対する依存欲求の強い者が10例に認められた.また,MRIでは症例25例中17例(68.0%)に軽度の脳萎縮やラクナ梗塞等の異常所見が存在し,EEGでは14例(56.0%)に基礎波の緩徐化や散発性徐波の混入などの所見を認めた.HASでは,平均21.3点±3.8(15〜29点)と若年者のGADより高い傾向が認められた.


【総括】
老年期のGADでは,脳の器質的問題の関与の可能性が示唆されたがその内容については一定の傾向が得られなかった.また,薬物や点滴に対する依存傾向が若年層に比較して強かったが,これは老年期に一般にみられる健康に対する不安とも関連すると推測される.

2001/06/13


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