【はじめに】パーキンソン病は運動障害のほかに認知機能障害や精神障害をきたしやすい.本疾患では精神障害のなかではセロトニン系の関与の強い抑うつが頻度として最も多いが,同じセロトニン系の関与が想定されている強迫性障害やパニック障害についての検討は少ない.今回,われわれはパーキンソン病における強迫性障害について検討したので報告する.
【対象と方法】対象は,特発性パーキンソン病患者30例で,男性10例,女性20例,平均年齢68.4±9.7歳,平均教育年数10.5±2.6年である.Yahr stageはI期3例,U期10例,V期12例,W期5例である.平均UPDRS運動スコアは18.4±11.6.方法は,強迫性の評価にMaudsleyのObsessional compulsive inventory(MOCI)[30項目,ありなし該当評価,最小0点〜最高30点,13点以上は強迫性あり,下位項目に確認,清潔,優柔不断,疑惑]を行った.関連検査として,抑うつ(ZSDS),不安(ZSAS)の自己評価尺度(いずれもZung)とMini-mental state examination(MMSE)とodd-man-out test(OMOT)を施行した.
【結果】強迫性障害(MOCI-total>13点)と診断されたのは6例(OCD(+))であった.このOCD(+)群と強迫性障害を呈さない残り24例(OCD(−)群)との比較では,年齢,UPDRS,MMSE,ZSDSに有意差を認めなかったが,ZSASとOMOTで有意差を認めた.すなわち,OCD(+)群はZSASで有意に高く,OMOTで有意に低かった.
【考察】Cummingsは,Alexanderらの3つのcomplex loopのなかで抑うつと強迫性障害に関連性の強い回路をとりあげている.基底核疾患でみられる抑うつには背外側前頭前野回路と前帯状回回路の障害が関与し,一方,強迫性障害には前頭眼窩回路の障害が関与していると強調し,パーキンソン病ではその病態像として背外側前頭前野回路と前帯状回回路の異常が主であるため抑うつは呈しやすいが,強迫性障害はまれと述べている.今回われわれの検討では,対象の20%が強迫性障害を呈しておりまれとはいいがたい.パーキンソン病の精神障害のなかにも抑うつとは別に強迫性障害を呈する一群があることを強調したい.しかし,パーキンソン病の強迫性障害の発現機序については現時点では不明であり,今後症例を増やして種々の見地から検討していく必要がある.
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