【目的】老年期うつ病(DE)では抑うつ気分に加え記憶,思考,判断などの能力低下,いわゆる仮性痴呆とよばれる状態を呈することが多く,アルツハイマー型痴呆(ATD)との鑑別が困難なことがある.そこで,記憶機能の面から両者の特徴を明らかにすることはその鑑別に有用であると考えられる.そこでわれわれは軽症ATDとDEならびに健常高齢者に聖マリアンナ医大式記憶機能検査(STM-COMET)を用い,それぞれの記憶ならびに認知機能障害を比較検討した.
【対象と方法】軽症ATD群11名,DE群17名ならびに対照(CTL)群として健常高齢者28名に対してSTM-COMETを施行した.ATDとうつ病の診断基準はDSM-Wを用いた.痴呆の重症度はFAST(functional assessment staging)により3と評価された軽症ATD患者を対象とした.STM-COMETは,直後自由再生(IVR),遅延自由再生(DVR),遅延再認(DVRG),memory scanning test(MST),memory filtering test(MFT)の5項目から構成される.
【結果と考察】(1)STM-COMET総得点では軽症ATD群とDE群間に有意差を認めなかった.(2)下位検査項目のIVR,DVRにおいて軽症ATD群はDE群とCTL群と比較して有意な成績の低下を認め(p<0.05),DE群とCTL群間に有意差を認めなかった.(3)DVRGでは3群間に有意差を認めなかった.(4)MSTでは軽症ATD群とDE群はCTL群と比較して有意な成績の低下認め(p<0.05),軽症ATD群とDE群間に有意差を認めなかった.(6)MFTでは3群間に有意差を認めなかった.以上より,軽症ATDは単語再生課題(IVR,DVR)で評価される検索および再生機能の障害が特徴的であり,DEではその特異性が認められないことが明らかとなった.
【結論】STM-COMETの総得点が同程度であっても,その下位項目のIVR,DVRは両者の鑑別を可能とすることが示唆された.
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