第16回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【I A-1】

症状学

軽症アルツハイマー病における認知機能障害とBPSDとの関連について
 

兵庫医科大学精神科神経科学教室  眞城英孝 植木昭紀 守田嘉男
  

【目的】軽症の初老期発症アルツハイマー病(AD)におけるBPSD(Behavioral and Psychological Symptom of Dementia)の出現要因を解明するためにBPSDと認知機能障害との関連について検討した.


【方法】
平成2年2月〜10年7月にはじめて当科を受診しNINCDS-ADRDAのprobable ADの診断基準を満たす65歳未満で発症したADで初診時FAST stage 4であった54名(男性22名,女性32名,初診時平均年齢63.5歳,平均罹病期間2.9年)を対象とした.認知機能の指標としてMMSEの得点を用い,BPSDはBEHAVE-AD(Behavioral Pathology in Alzheimer,s Disease Rating Scale)により点数化した.BPSD出現時と2年後の,または初診時にすでにBPSDを認めた場合は初診時と2年後のMMSEの得点差を認知機能障害の進行の指標とした.BPSDは40名に認めた.BPSD出現時または初診時から2年間の抗精神病薬(7名に投与),抗うつ薬(5名に投与)の総投与量(クロルプロマジン換算平均16,546.4mg,イミプラミン換算平均20,010.0mg),BEHAVE-ADの妄想観念(31.5%に出現,平均点2.0),幻覚(13.0%,2.4),行動障害(38.9%,2.5),攻撃性(44.4%,2.4),日内リズム変動(18.5%,1.3),感情障害(38.9%,3.4),不安および恐怖(33.3%,1.9)の項目とBPSD出現時または初診時のMMSE得点(平均19.9),2年後の得点差(平均6.0)のそれぞれについてピアソン順位相関係数(r)を求めた.


【結果】
BPSD出現時または初診時のMMSE得点とBPSDの各項目や薬剤との間に有意の相関はなかった.しかし初診時と2年後の得点差と攻撃性(r=0.431,p=0.001),感情障害(r=0.637,p<0.0001)の間に有意な相関がみられた.


【考察】
ADのBPSDは必ずしも認知機能障害に伴う二次的症状ではないように思われた.ADの攻撃性,感情障害は認知機能障害の進行と関連しており,BPSDのなかでADの神経病理学的,神経化学的異常をより反映する症状であると考えられた.軽症の初老期発症ADに出現するBPSDのなかで攻撃性,感情障害が認知機能障害の予測因子となる可能性が示唆された.

2001/06/13


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