第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-13】
生化学・遺伝
プレセニリン1変異と高グルコース(高浸透圧)ストレスによる
アポトーシス誘導について
  

大阪大学大学院医学系研究科・生体統合医学神経機能医学(精神医学) 谷井久志
工藤 喬,武田雅俊
カロリンスカ研究所(スウェーデン)老年医学部門 Richard Cowburn,Maria Ankarcrona
   

 家族性アルツハイマー病の主要な原因であるプレセニリン1(PS1)遺伝子の突然変異とアポトーシスの関係については,ミトコンドリアの機能異常などさまざまな知見が報告されている.また,アルツハイマー病脳におけるIGF-1受容体の異常に関する研究に基づいて,アルツハイマー病とNIDDM(インシュリン非依存型糖尿病)の関連性を示唆する仮説なども提唱されている.そこでわれわれは高グルコース(高浸透圧)ストレスによるアポトーシス誘導に注目して,PS1変異との関係について検討を行った.
 PS1の突然変異を導入したSH-SY5Y細胞を用い,高グルコース(高浸透圧)ストレスを加えたあと,クロマチンの凝縮およびTUNEL染色を用いて,アポトーシスの評価を行ったところ,PS1突然変異を有する細胞系においてアポトーシス誘導が増加した.また高グルコース(高浸透圧)ストレスに対して抗アポトーシス作用を示すIGF-1の効果がPS1突然変異で減弱していた.またMTTを用いて細胞死についての検討を行ったところ,これらの変化がネクローシスによるものではなく,アポトーシスによるものと考えられた.
 次に,高グルコース(高浸透圧)ストレスによるアポトーシスに関係する酵素であるJNK(c-Jun N-terminal kinase)の活性の変化やCaspase-3の活性を調べた.その結果,PS1の突然変異において,JNK活性やCaspase-3の活性が増加していることが認められ,プレセニリンがJNKやCaspase-3の活性に影響を与えることが示唆された.
 以上の結果は,プレセニリンの突然変異がミトコンドリアやCa調節系のみならず,IGF-1に関連する細胞内情報伝達系に影響を及ぼし,JNKやCaspase-3の活性化をとおしてアポトーシス誘導を生ずるという可能性を示唆している.今回の新しい知見は家族性アルツハイマー病における細胞死のメカニズムの理解の一助になると考えられる.

2000/07/06


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