【症 例】66歳,女性
【家族歴】5人同胞の第4子,特記事項なし
【現病歴】45歳ころからしだいにだらしなくなった.頭部が後屈する不随意運動も出現し,56歳ころから構音障害,歩行時のふらつき,書字障害,もの忘れが加わった.66歳で食物を気道に誤嚥し窒息に陥り,脳死状態で13日後に死亡した.
【入院時(60歳)所見】歩行は失調性,腱反射は亢進し,Babinski反射が陽性.頭部を後屈させる不随意運動があり,筋緊張亢進,指微細運動拙劣.脳神経系で幅奏障害,上方注視障害,構語障害,嚥下障害.精神症状として強迫泣き・笑い,WAIS-RでIQ64と低下.頭部CT・MRIで基底核と小脳歯状核に著明な石灰沈着を認め,頭部単純XPでも証明可能.血液生化学的にCa,P,副甲状腺ホルモンは正常.Albright徴候は認めなかった.
【剖検所見】脳は全体的に壊死に陥っており基底核,小脳歯状核に相当する融解した組織の中に石灰が大きい石状の塊として存在していた.とくに小脳歯状核に沈着した石灰は歯状核そのものの形態をなしていた.詳細な観察は困難であったが,海馬回では錐体細胞層の多数の毛細血管の壁に石灰が粒状に存在しており,錐体細胞は著しく減少していた.
【考察】本例は副甲状腺機能に異常はなく家族歴も存在しない.また,Albright徴候を認めなかったことより,特発性非家族性大脳基底核石灰化症とした.本例の症状は著明な石灰沈着による組織破壊で出現したものと考えられた. |