第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-11】
神経病理
海馬歯状回のユビキチン陽性封入体はALS with dementia
(=MND type of FTD)に特異的ではない
  

東京都精神医学総合研究所神経病理・東京都立松沢病院  池田研二,秋山治彦
新井哲明,土谷邦秋
横浜市立大学医学部精神医学講座  日野博昭,井関栄三
   

 Lund & Manchester groupの提唱したfrontotemporal dementia(FTD)は,frontal lobe degeneration type(FLD type),Pick type, motor neuron disease type(MND type)の3タイプに分けられている.われわれは,濃厚な遺伝負因があり,変性・萎縮の程度が軽度にとどまるというFLD typeは,その本邦でのcounterpartと考えられるピック球を伴わないピック病群(Pick's disease without Pick body;PD without PBと略)とは異なる可能性が高いことを指摘した.この報告では,Lund & Manchester groupが,MND type(=amyotrophic lateral sclerosis with dementia;ALS with Dと略)の神経病理診断基準にあげ,MND typeに特異性が高いとされている海馬歯状回の顆粒神経細胞に出現するユビキチン陽性封入体が,はたしてMND typeに特異的なものであるかどうか,ということを検討した.
【方法】神経病理診断の確定したALS with D 11例,PD without PB 13例,について,海馬歯状回を通り側頭葉を含むパラフィン包埋前額断切片を,抗ユビキチン抗体(MAB1510)で免疫染色後,ニッスル体染色を行い,海馬歯状回と,側頭葉皮質についてユビキチン陽性封入体の出現の有無を検討した.一部の症例について,ユビキチン陽性封入体が抗タウ抗体(human tau pool2)に陰性であることを確認した.
【結果】海馬歯状回において,ユビキチン陽性封入体は,ALS with D 11例中9例(陽性率81.8%),PD without PB 13例中10例(陽性率76.9%)に出現した.両群ともに高度〜軽度に出現する症例が混在しており,封入体の出現の程度に差はなかった.封入体の形態はともに円形〜勾玉状で同じであった.側頭葉皮質ではU〜V層上部の神経細胞体あるいは組織にフリーに封入体が分布していた.PD without PB群で封入体陰性であった3例はいずれも臨床経過は3年であった.これら3例では,定型的な封入体はなかったが,小顆粒状封入体が散見された.一方,ALS with D群で,ユビキチン陽性封入体を伴っていた症例はすべて臨床経過が4年以内であったが,封入体陰性であった2例は6年,15年と経過が長かった.
【考察】ALS with D群とPD without PB群で,ユビキチン陽性封入体の形態,分布,陽性率に差がみられなかったことから,この封入体はこれまで考えられていたようにALS with Dに特異性のあるものではない.PD without PB群では陰性例はいずれも臨床経過が短かったので,封入体の出現は臨床経過(=変性の進行)に依存している可能性がある.一方,ALS with Dの封入体陽性例はいずれも臨床経過が短く,従来の報告に一致していたが,陰性例は経過が長く,これらは異なるsubgroupである可能性がある.これについてはあらためて報告する.

2000/07/06


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