第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-10】
神経病理
進行性失語で発症し前頭側頭型痴呆と診断されたが,
異なる病理像を示した3剖検例
  

積善会曽我病院・横浜市立大学医学部精神医学教室  加藤雅紀
横浜市立大学医学部精神医学教室  小田原俊成,井関栄三,小阪憲司
  

【はじめに】前頭側頭型痴呆(frontotemporal dementia;FTD)は近年,臨床ならびに病理学的診断基準(The Lund and Manchester Groups,1994)が示されて以来,わが国でも臨床診断名としてしばしば用いられている.しかし,現在の時点では,FTDを臨床・病理学的特徴と病態機序の共通した一疾患単位とすることはできない.本研究では,進行性失語を初発症状とし,画像上は前頭・側頭葉優位の萎縮を認め,FTDと臨床診断されたが,異なった病理像を示した3剖検例を呈示し,臨床・病理学的疾患概念としての問題点や位置づけについて考察する.
【症例呈示】症例1:76歳男性.70歳時,健忘失語・語性錯誤で発症.徐々に発語は減少し自発性も低下,74歳ころになると痴呆や物集行動・口唇傾向がみられ,全経過6年で死亡.頭部CT上は左側優位の側頭>前頭葉の限局性萎縮.病理診断は非定型アルツハイマー病.症例2:72歳女性.66歳時,常同言語・発語量の減少で発症.70歳ころには自発語消失し痴呆も顕在化,同時にパーキンソン症状が出現し比較的急速に進行.全経過6年で死亡.頭部CT上は前頭・側頭葉の限局性萎縮.病理診断は皮質基底核変性症.症例3:67歳女性.62歳時,健忘失語・常同言語で発症.64歳ころには発語量著明に減少し痴呆が顕在化.65歳ころ,右半身に痙性不全麻痺出現し,原始反射が陽性.全失語となり,全経過5年で死亡.頭部CT上は左側優位の側頭>前頭葉の限局性萎縮.病理診断は非定型ピック病.
【考察】FTDは画像所見と神経心理学的所見により特徴づけられる臨床的症候群と考えられる.病理学的には,複数の変性疾患が本概念に含まれているものと思われ,病態機序に基づいた疾患概念の明確化が望まれる.

2000/07/06


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