【目的】今回,抑うつ傾向を示す初老期・老年期症例において,個々の症例で脳器質的要因がどの程度関与しているかを検討する目的で,事象関連電位,局所脳血流検査を施行したので報告する.
【対象と方法】対象は55歳以上で,いずれもハミルトンうつ病評価尺度にて10点以上の抑うつ傾向を示す者のうち,MRIに異常所見を認めない者(DEP)18名(平均64歳),無症候性脳梗塞を合併する者(DEP・SCI)27名(平均66歳)と脳梗塞発症後6か月以上が経過し,片麻痺など神経症候を有するが知的機能の異常を認めない者(DEP・PS)15名(平均67歳)で,対照群は精神神経学的に問題のない健常者25名(平均65歳)である.事象関連電位のP300は,聴覚刺激を用いたodd-ball課題(ボタン押し反応)下で記録し,局所脳血流(rCBF)の評価は,脳内18か所に関心領域(ROI)を設け,それぞれの放射能活性を小脳半球に対する比で求めた.
【結果と考察】対照群と比較して,DEP群はP300潜時の有意な短縮を認め,IMP-SPECTにおいて左前頭葉下部および右頭頂葉で有意なrCBFの低下を認めた.DEP・SCI群はP300潜時の有意な延長と両側の前頭葉,頭頂葉および基底核で有意なrCBFの低下を認めた.DEP・PS群はN200,P300潜時の有意な延長および大半のROIで著明なrCBFの低下を認めた.さらにDEP・PS群では,皮質平均rCBFとP300潜時との間に有意な負の相関が認められたが,他の2群では両者の間に有意な相関はなく,とくにDEP・SCI群では両指標の結果が乖離する例も少なくなかった.
以上より,DEP群は脳機能障害の程度は軽度で,脳器質的要因の関与が小さい例が多いのに対して,DEP・PS群は脳器質的要因の関与が大きい例が多く,脳血流量の低下に相応した認知機能障害が認められることが明らかとなった.一方,DEP・SCI群では,脳器質的要因の関与が大きい例とそうでない例とが混在し,われわれはこれらの鑑別にP300,SPECTをあわせて評価することが有用であると考えた. |