第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-5】
認知機能
老年期精神障害者における眼球運動の特徴
  

久留米大学医学部精神神経学教室  山本正史,森田喜一郎,宮平綾子
山口 浩,森田恵史,前田久雄
      

 探索眼球運動は視覚情報処理過程における認知機能を反映する生理学的指標とされ,これまで精神障害者において多くの研究がなされてきた.今回われわれは老年期精神分裂病者,痴呆者の視覚情報処理過程における特徴を探索眼球運動を生物学的指標にして比較検討を行った.
 対象は年齢をマッチした健常者,老年期精神分裂病者および痴呆者のおのおの13名であり,すべての被験者には,書面にて検査前,本研究の説明を行い同意を得たあと施行した.探索眼球運動は,アイマーク・レコーダを使用,2枚の単純円,3枚の表情画,1枚の景色図をスライドでスクリーン上に提示し,その際の眼球運動から,平均停留時間,停留点総数,停留点平均移動距離,停留点総移動距離の4要素を解析した.
 平均停留時間は,3群間に有意差を認め精神分裂病群が最も延長していた.停留点総数は,健常群と各疾患群には有意差があるものの精神分裂病群と痴呆群には有意差はなかった.平均移動距離は,健常群と各疾患群には有意差が観察された.精神分裂病群と痴呆群とでは痴呆群が延長する傾向が認められた.総移動距離は,健常群と各疾患群には有意差があるものの精神分裂病群と痴呆群には有意差はなかった.各提示図では,表情画の再確認図や最後の丸(6枚目)で痴呆群が健常群の傾向を示した.検査後の,提示図の描画スコアーや景色提示図における質問スコアーは,3群間に有意差があり,痴呆群が最も小さい値であった.
 以上の結果より,痴呆者は,健常群と比較して停留時間の延長,総数の減少と移動距離の減少という特徴があるが,再確認や注意持続力は精神分裂病群より健常群に近い傾向であることが示唆された.

2000/07/06


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