第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【II B-3】
診断
若年発症のピック病と考えられた一例
   

神戸大学医学部精神神経科  高原夕紀子,大川慎吾,柿木達也,若栄徳彦
増元康紀,井上浩一,橋本健志,前田 潔
    

 若年発症のピック病と考えられた一例を経験したので報告する.
【症例】33歳,女性,右利き,短大卒業
【主訴】家事をしない,子どもの面倒をみない.
【家族歴】父方の祖父が脳血管障害性痴呆にて死亡.母方の祖母が脳梗塞にて死亡.
【既往歴】幼少時よりアトピー性皮膚炎,小児喘息.
【現病歴】平成9年(31歳時)より頻回に車の接触事故を起こすようになった.9月よりアトピー性皮膚炎に対し家に温泉水を取り寄せ入浴する温泉療法に固執するようになった.10月に突然嫁ぎ先より別居を言い渡される.実家に戻るが,家事をせず,子どもに対しても無関心であった.また,蚊がいると言っては部屋中に殺虫剤をまき回り,洗濯機に大量の洗剤を入れ,昼夜逆転,放尿等の異常行動がみられた.スーパーで勝手に店の物を食べたり,自家用車を運転しては信号が守れず事故を起こしたりもしていた.平成11年7月M病院受診.9月よりつば吐き行為,ひっきりなしに手首を振る動きがみられるようになる.同年12月H病院に入院,精査目的にて平成12年1月K病院精神神経科に入院となった.
【神経学的所見】特記すべきことなし.
【神経心理学的所見】WAIS-R;測定不能.一般検査,EEG,髄液所見には異常はなかった.
【神経放射線学的所見】平成11年7月のMRIでは両側頭葉に強い萎縮,両側脳室前角拡大,両側下側頭回にrelative HIAが認められた.平成12年2月のMRIでは前頭葉および側頭葉の萎縮が認められた.IMP-SPECTでは両前頭葉,両側頭葉の血流低下,とくに左側の低下が著しくみられた.
【考察】ピック病ではいままで28歳発症の報告例があるが,今回の症例も31歳という非常に若い発症の一例である.ピック病の発症には大きく人格変化,失語から始まる群があるが,今回の症例は人格変化から始まった症例であった.若年発症の他の報告されている症例と比較検討し,当日発表を行う予定である.

2000/07/06


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