第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【UA-17】
心理療法
痴呆患者における個人回想法の試み
−Life reviewとしての回想法をとおして−
  

九州大学医学部附属病院精神科神経科  浦部雅美,尾篭晃司
九州大学医学部附属病院精神科神経科・九州大学健康科学センター  一宮 厚
   

【はじめに】近年,痴呆患者の精神機能の維持・向上を目的として試みられている回想法は,施行形式によりグループ回想法と個人回想法に大別され,ReminiscenceとLife reviewという2つの概念を含んでいる.本研究では,介護者同席面接により施行したLife reviewとしての個人回想法の概要を報告するとともに,痴呆患者および介護者の状態変化を検討することにより,回想法の治療的有用性を考察した.
【対象と方法】対象は,DSM-Wの診断基準を満たし,九大病院精神科外来通院のアルツハイマー型痴呆16名である.平均年齢は67.1歳で,Mini-Mental State Examination(MMSE)の平均得点は,20.3である.
 回想法の目的は,痴呆患者の自尊心の維持・向上やIdentityの再構築をはかり,情緒的体験や心理的安定を促すことである.施行頻度は,2週間に1回で計12セッションである.セッション内容は,幼児期から現在に至るまでの時系列的なテーマで行った.
 評価にあたっては,施行前後に患者へMMSEを,介護者へSTAIならびにBECK SELF RATING SCALEを実施した.各セッションでは回想法評価表を作成し,患者と介護者における気分の変化などを評価した.
【結果および考察】現時点で回想法が終了した患者は,16名中6名で,継続者が5名,中断者が5名である.回想内容を保持することが困難な痴呆患者が多かったが,気分の安定は,帰宅後も持続されていた.想起できたことへの驚き,回想内容そのものへの懐かしさや喜び,人生に対する自信などがセッション中,患者自身から言語化された.このような情緒的反応が,気分の安定をもたらしたと考えられる.介護者からは,患者の発言量の多さや表情の明るさなどが指摘された.痴呆患者の心理的安定は,介護者の精神的ストレスを軽減させ,介護者の心理的安定は,痴呆患者とのスムーズな関係をもたらすと思われる.
 発表当日は,今後12セッションを終了する対象における結果ならびに事例を交えながら考察を加えたい.

2000/07/06


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