第15回日本老年精神医学会 演題抄録

 

【UA-15】
心理療法
前頭側頭葉変性症患者に対する音楽療法の試み
   

名古屋大学大学院教育学研究科  渡辺恭子
財団新居浜病院  酉川志保,塩田一雄,松井 博
愛媛大学医学部神経精神医学教室  池田 学,西川 洋,繁信和恵,安岡卓男
     

【はじめに】最近,老人性痴呆疾患治療病棟,特別養護老人ホーム,老人保健施設などで,音楽を用いたレクリエーションや音楽療法が頻繁に行われるようになってきた.今回は,前頭側頭葉変性症(FTLD)患者を対象とした音楽療法の試みについて発表する.
【方法】音楽療法は,財団新居浜病院老人性痴呆疾患治療病棟で週一回50分程度行った.1997年8月から2000年3月までの参加者71名のうち,前頭側頭葉変性症患者は11名であった.実施形態は10名前後のセミクローズドで,活動内容は「始めの歌・名前の確認・今月の歌・身体運動・今日の歌・合奏・終わりの歌」である.活動評価は,妥当性・信頼性の確立された痴呆用愛媛式音楽療法評価表(D-EMS)を,前頭側頭葉変性症に対応するよう改定したD-EMS for FTLDを用いて行った.評価項目は「認知・発言・集中力・表情・参加意欲・社会性,歌唱,リズム,身体運動」である.今回は音楽療法中の変化のみをとらえるため,「認知・発言・集中力・表情・参加意欲・社会性」について,音楽療法実施日の午前中の集団活動の状態と音楽療法中の状態を評価し,この2つをT検定で比較検討した.さらに記載評価も行った.
【結果】D-EMS for FTLDの認知・発言・集中力・表情の項目で有意差が認められた.しかし,参加意欲・社会性での有意差は認められなかった.参加スタッフからは「他の活動には参加できない患者が音楽療法では活動できている」「音楽療法中は他の活動と比べて立ち去り行動が少ない」「言語の障害のある患者でも歌唱ができている」等の報告を得た.
【考察】これらの結果は,音楽療法が言語でない音楽を媒介としていること,セミクローズドという環境により活動に集中しやすかったこと,歌唱というわかりやすい活動を中心としていることなどによると考えられた.また,記憶障害が軽度であることを利用して毎回同じ流れで行うなどの前頭側頭葉変性症に対応したプログラムの工夫による影響が有効であった可能性が考えられた.

2000/07/06


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